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重度障がい者も会社をつくれる──19歳で起業した寝たきり社長の挑戦

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • スタートアップ企業や起業に興味のある人
  • 障がい者の社会参画に関心のある人
  • 社会貢献に興味を持つ人
  • テクノロジーやデザインに興味のある若者
Point この記事を読んで得られる知識

この記事から得られる知識は、重度障がい者でも起業し、働く環境を作り出せるという実例を通じた理解である。株式会社仙拓の佐藤仙務社長は、筋肉が動かなくなる難病のため動かせる体の部分は限られているが、それでも自らの手で就職活動の困難さを乗り越え、幼なじみと会社を設立するに至った。佐藤社長と松元副社長がどのように起業のアイデアを練り、実行に移したかが語られている。

また、記事を通じて、物作りのスキルや情熱が、障がいの有無にかかわらず活かされることが強調されている。具体的には、Webサイト制作やアプリ開発、ピアカウンセリング事業の展開について言及されており、それらがどのように社会に価値を提供しているのかが明らかにされている。

さらに、佐藤社長らの起業活動が社会的に認められ、賞を受けていることや、障がい者雇用を進める企業と連携を図りながら事業を発展させていく様子も示されている。これにより、社会における障がい者の働く場と選択肢の拡大に対する意義も理解できる。これらの活動がどのようにして、障がい者自身の働きたいという熱意を引き出しているのか、具体的な状況や体験を通じて紹介されている。

Text AI要約の元文章

重度障がい者も会社をつくれる──19歳で起業した寝たきり社長の挑戦

左より株式会社仙拓 代表取締役社長の佐藤仙務(ひさむ)さん、副社長の松元拓也さん。

「重度障がい者の働ける場をつくりたい」。その思いを19歳で実現した佐藤仙務さんは、重度障がいの寝たきり社長だ。筋肉がどんどん動かなくなるという10万人に1人の難病「脊髄性筋萎縮症」のため、動かせるのは親指と顔だけ。左手の親指は数ミリ、右手の親指は1センチ前後動くという。

そんな佐藤さんは、名刺やWebサイトを制作する株式会社仙拓を同病の3歳年上の幼なじみ松元拓也さんと2011年に立ち上げた。設立4年目にはアプリ開発の事業も始め、4人目の重度障がい者メンバーも入社した。拡大を続ける仙拓の社長、副社長のお二人に、いかにして会社を起こし、発展させているのか伺った。

働ける場がないなら自分たちでつくる

なぜ会社を立ち上げたのか教えていただけますか。

もともとは、会社を起こすつもりはなくて、普通にどこかの会社に就職して働きたいなぁと思っていたのです。いざ自分が就職活動を始めてみると、重度の障害を持っている人間は、なかなか雇ってもらえなかったり、会社に合わせることが難しかったりすることがわかりました。自分が働く場所がほとんどない状態でした。

そのころ松元にスカイプで話し、二人で組んで仕事をしようということになり会社を起こしました。

佐藤さんは、18歳のときに会社を設立することを決意した。

松元さんは、お話を聞いたときはどんな気持ちでしたか?

僕自身も勤めるところがなかったので、フリーランスで仕事をしていくつもりで、ずっと勉強をしていました。そこで声をかけられたので、タイミングもよくて、ほんとに二つ返事で「いいよ」と返事をしましたね。

お二人とも自分で事業をしようという気持ちがあったのですね。

僕は団体に入るのが苦手なので、個人でやろうと思っていましたが、歳が近い佐藤と一緒にやるのもいいかなという気持ちでした。

子どものころからコンピュータが身近だった

松元さんは、Webやデザインの勉強を学生時代からしていたそうですね。

小さい頃からものづくりが好きでした。タイミングよくWebが発展する時期に恵まれて。そこで、勉強というよりも遊び感覚で続けていました。

小さい時からコンピュータが身近にあったのですね。何歳ぐらいからでしたか?

小学生ぐらいの頃から身近にありましたね。

僕は物心ついたときから家にパソコンがありました。小さいころは、そんなに興味がなかったんですけど、小学三年生のときに自分専用のパソコンをもらいました。

最初はワードで文章を打ったりと、そのぐらいからのスタートでしたが、触っていくともっと知りたいと思うようになりました。覚えていくと便利なことがたくさんあります。

佐藤さんは、キーボードを画面に映し、両方の親指でマウスを動かし文字を入力する。

マウスは両方の親指だけで操作できるようにお父様が特別に作られたそうですね。

はい。こどもの頃からいろいろと直してもらったりしています。

松元さんはいかがですか?

僕は座っているときは小さい普通のマウスを使っています。横になっているときは片手でトラックボールをつかい、片手でピンポン球にクリック機能がついたものをつかってやっています。本当に弱い力でクリックできるようになっているんです。

会社を始めてから、普通のマウスだけでは腱鞘炎になってしまって。知り合いの方に、合うものを作っていただきました。

独特の発想でエンタメ系アプリを開発

先日、子会社ムーンパレットを設立されましたね。松元さんが社長ということですが、このタイミングで作られたのはなぜですか?

アプリ開発に力を入れていきたいからです。2014年に、仙拓から「歯みがき日和」というアプリをリリースしました。奇をてらったインパクトがあるものです。同じ路線で今後も出すには、仙拓としては見え方がよろしくないかなということもあり子会社を設立しました。今後は、エンタテインメントに力を入れて、幅を広げていきたいです。

彼のやりたいことを思う存分できるよう子会社にしました。

見せ方を工夫したのですね。「歯磨き日和」はどのような経緯で開発したのですか?

ほんとに僕ら独特なんですけど、自分で自分のことはできなくて、全介助をお願いしているんです。歯磨きも人にお願いするんですね。

なので、歯を磨いてもらっているときに、「人の歯を磨くのはどんな感覚なんだろう?」と思ったのがきっかけで始まりました。

松元さんは、2014年12月から仙拓の子会社ムーンパレットの社長に就任した。アプリ開発に力を入れたいと語る。

独特ですね。

そうなんです。どうせ磨くならかわいい女の子がいいよなっていう、しょうもないところから、このアイディアにつながりましたね。

面白いですね。これまで歯みがきのアプリというと、上手に磨くための勉強的なものはありましたよね。

そうですね。最初はそういうコンセプトだったんですけど、なんか面白くないなぁと。せっかく出すならインパクトがあって面白いものがいいと感じたのです。

仙拓の凝り固まったイメージを払拭したいなっていうところも多々ありまして。仙拓って、何をするかわかんないようなイメージももたせてみました。今回こんな萌え系を出したら、面白いのではないかというところです。

反響はいかがですか?

すごかったですね。You Tubeでも一万再生以上いきました。

Yahoo!ニュースなどにもとり上げられました。

このキャラクターたちはどのようにつくったのですか?

イラストレーターさんを探して、お願いしました。僕がプロットを組み立てたので、それに沿って描いてもらいました。

松元さんの理想の感じが表れているのでしょうか?

もう理想を描いています。「こういうのが好きなんでしょっ」という感じのキャラクターを詰め込んでいます。

障がい者と法人向けにカウンセリング事業を展開

ピアカウンセリング(※)の事業もしているようですね。

※同じ悩みや障害をもつ仲間の相談に乗り、悩みや障害をその人自身で克服できるように援助すること。

今は仙拓の中の事業となっています。2015年に一般社団法人を立ち上げる予定です。

今後は障がい者雇用に取り組み始めている会社と顧問契約をして、カウンセリングすることを考えています。障がい者雇用は増えていますが、障がい者を雇っても気持ちがわからないとか、どう話を聴いたらいいかわからないという問題もあるようなので。

ピアカウンセラーのマッチングサイト「るくぴあ」の事業内容は、「Japan Venture Awards 2015」にて「アントレプレナー特別賞」を受賞した。

全く新しい事業ですか。

はい。他には聞かないですね。

在宅勤務と事務所通勤を織り交ぜる

当初はご自宅でお仕事をされていたそうですが、いつから事務所があるのですか?

2014年3月からです。家で取材や打ち合わせをしていたのですけど、うちの中が見えてしまったりするので、やっぱり事務所で仕事がしたいなと思って。

来客対応の拠点なのですね。毎日来るわけではないのですね?

そうです。週の半分ぐらいです。

自分は月曜日と火曜日に来ますね。

来客がなくてもでしょうか?

もう関係なく。

メリハリみたいなものは、ありますか?

メリハリあるかなぁ? 家に帰ってもやっぱり仕事はします。 仕事をする時間が余計に長くなりました。

時間としてはどのくらい働いているのですか?

事務所に来る日は10時に来ます。17時に帰宅して、だいたい家で23時か24時ぐらいまでは仕事します。

ずいぶん仕事をされているのですね。

ご飯のとき以外は仕事をしています。ものを作っているので、やっぱり終わらないですね。

佐藤さんはいかがですか?

僕もそうです。かなり夜行性です。だいたい10時半ぐらいに来て16時か17時まで事務所でやって、家に帰ってから深夜1時2時までは仕事をやっていますね。

重度障がい者の「働きたい」熱意を結集

大阪でWeb解析のお仕事をする人が在宅で働いていらっしゃるとに書かれていましね。

はい。2015年は、もう一名雇います。在宅でサイト制作をやっていただく予定です。現在は大学生で埼玉に住んでいます。僕よりちょっと歳が若いので、仙拓では最年少になります。

重度障がい者の方ですか?

そうですね。大阪の方と同じく筋ジストロフィーです。ただもうちょっと状態はよくて、電動車椅子に乗って外出したりはできるみたいです。たぶん仙拓の中では状態のいいほうではないかと思います。

どのようにして仲間になったのですか?

仙拓のメンバーイラスト。左よりWeb解析担当の宗本智之さん、副社長兼Webデザイナーの松元拓也さん、顧問の青野慶久さん(サイボウズ社長)、Webサイト制作アシスタントの浦田充さん。顧問以外は重度障がい者。

その方は大阪のメンバーとつながっている方で、なかなか就職できないことをFacebookに書いていたそうです。大阪のメンバーから「ちょっと相談に乗ってあげてもらえないか」と話があり、その後FacebookでやりとりしSkypeで話をしました。

頭はめちゃめちゃいい方なのですが、就職の面接に行っても、「障がいを持っているからお断り」というところが多かったそうです。筋ジストロフィーって、どんどん進行する病気なので、「なんでそんな人を雇わなきゃいけないんだ」と会社に言われたこともあったそうです。

話を聞いていると、その人が「かわいそう」とか、そういうことではなくて、「もったいないな」と感じました。「働きたい」という熱意はすごく持っているので、「仙拓にどうかな」と思い採用を決定しました。

ちょうど大学を卒業されるタイミングですか?

卒業しますが、大学院に進学し法律の勉強をするそうです。

では仙拓は、法務の面も強くなるんですね。

そうなっていくと、ありがたいなと。

後編に続く
2015年3月16日斬新なサービスで「働くこと・遊ぶこと」の選択肢を増やしたい──重度障がいの起業家たち

撮影:三澤 武彦  文:渡辺 清美

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執筆

編集部

渡辺 清美

PR会社を経てサイボウズには2001年に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で、広報IRを担当後、育児休暇を取得。復帰後は、企業広報やブランディング、NPO支援を担当。サイボウズ式では主にワークスタイル関連の記事やイベント企画を担当している。

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