サイボウズ株式会社

末端の人と人との関係をプロトタイピングできれば、いいシステムが作れる――大前研一×サイボウズ青野慶久社長

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • ビジネス関係者
  • クラウド技術に関心がある人
  • 教育改革に興味を持つ人
  • イノベーションや新しい働き方を模索する人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事から得られる知識として、まずクラウド技術の可能性についての大前研一氏とサイボウズの青野慶久社長の対話が描かれています。クラウドは公共サービスにもメリットをもたらし、特に日本ではまだその可能性が十分に活用されていないと指摘されます。また、エストニアの先進的な電子政府の事例を通じて、クラウド技術が如何に政府や社会を変革できるかが説明されています。さらに、教育分野においてもクラウドの活用が可能であり、情報の引き継ぎや共有がよりスムーズにできることについて述べられています。

大前氏はクラウドを使った新しいビジネスモデルの可能性についても触れ、特にクラウドソーシングにより無形の「群衆(クラウド)」の力を引き出すことができると述べています。これは企業にとってコストを抑えつつ柔軟な形で人材やアイデアを取り入れる新しい方法です。

また、教育に対する考え方では、従来のレガシーな教育システムから脱却する必要があり、好きなことに没頭する能力が重要であることが強調されています。特に、日本の教育システムに対する批評的な視点を持ち、子どもが自らの興味を追求することの重要性を説きます。最後に、新しい時代に適応するためには、既存の常識や方法を破壊することが必要であるという考え方を示しています。

Text AI要約の元文章
サイボウズ

末端の人と人との関係をプロトタイピングできれば、いいシステムが作れる――大前研一×サイボウズ青野慶久社長

2014年11月28日に開催される「cybozu.comカンファレンス2014」。東京会場ではあの大前研一氏がクラウドにまつわる講演を行います。その事前打ち合わせのため、サイボウズの青野慶久が大前氏の事務所を訪問。クラウドがこれから世の中をどのように変えていくのか、意見を交換しました。そこからいつしか話は教育の分野へ。「宿題をやるくらいならゲームをやれと言っていた」などの超ユニークな“大前流育児論”に、イクメン経営者として知られる青野も興味津々で聴き入ります。既存の常識に縛られたレガシーな思考をバッサバッサと斬り捨てる痛快な“大前節”を、イベント講演に先立ち、まずはこちらでお楽しみください!

日本の公共サービスはクラウドのメリットをまだ生かせていない

このたびは「cybozu.comカンファレンス2014」での講演をご快諾いただきありがとうございます。今回のカンファレンスのテーマは「チームを強くするクラウド」。サイボウズは今、クラウドに社運をかけ、「ここでダメなら会社が終わる」くらいの気持ちで全力を投入しています。

クラウドは、企業はほうっておいても使うんですよ。これから先、本当にクラウド導入のメリットが出てくるのは、パブリックサービスの部分だと思う。これまでは市町村・都道府県・国すべて縦割りで、バラバラのシステムを作ってきたでしょう? 中身は全部同じなのに。例えば、選挙の際に、市町村が電子投票システムを作ったとしても、それを県議会や国会の議員選挙には使えない。発想が個別対応なんですよ。

確かにバラバラで効率が悪いですよね。

その点、クラウドならば、最初に1つクラウド上にシステムを設計すれば、それを市町村でも、県でも、国でも利用できます。ここがクラウドの最大のメリットですよね。最小単位のものを1つ作れば、最大単位をカバーできる。

おっしゃるとおりですね。

そういう意味では、エストニアはかなり進んでいますよ。人口わずか130万人の国ですが、2000年からすでに電子政府を導入しています。閣議もすべて電子会議で、それを国民もすべて覗ける。
もっとすごいのは、国民1人ひとりのIDをスマートフォンのSIMカードに入れるようにしたんです。それで本人証明やサインもできてしまう。
電子投票システムも、地方選挙では2005年から、国会の選挙でも2007年から導入しています。海外在住のエストニア人もこのシステムを使って投票できるんです。

そこまできていますか。投票のためにわざわざ近くの小学校まで行く必要はないんですね(笑)

電子教育も進んでいますよ。クラウドに生徒の成績や出欠などの情報を上げていて、親も先生も本人も見られる。

サイボウズはある県で教育関係のクラウドをやっているんです。今の日本の学校では、例えば生徒が隣町の学校に転校しただけで、情報が引き継がれない。それまで先生とどのようなやり取りを行ってきたかわからず、完全にゼロクリアになるんですよ。

人口100万人の国でできているのにね。日本はレガシーに凝り固まってしまっているんですよ。発想そのものを変えないと。

“最小のユニットをいかに構築するか”がクラウドのキモ

クラウドでは、誰と誰がどういう形で結びついているかを原点として最小単位のユニットを構築するのが大事。先ほども言ったように、クラウドはスケーラブル(拡大縮小が可能=大規模な変更をしなくても質的・量的変化に対応できる)ですから、まず最小単位で作ってしまえば、あとはどのようにでもなる。

ええ。

例えばPOSシステムなども、端末にiPadなどを使い、受発注や売掛回収、在庫管理といったシステムはすべてクラウド側に持っておく形にして、最小単位で構築すれば、そこからいくらでも拡大可能。かなりレベルの高いPOSシステムを月々3000円程度で利用できるようになります。こうなると従来型のITゼネコンは不要になってしまう。

最小のユニットをいかに構築するかがキモなわけですよね。

そうです。ただし、クラウドだけではダメ。ただ単純に「データを預かります」といっても、価格競争になりますから。無味乾燥なクラウドを肉付けするソフトコンテンツも考えなくなくてはならない。そこに一歩踏み込めれば、強烈なものを生み出せます。

なるほど。

もう1つ、「群衆」という意味のクラウド(CROWD)も重要です。代表的なのがクラウドソーシング。僕も日本語のプレゼンシートを英訳する際には、「オーデスク」というクラウドソーシングサービスで募集をかけるんです。発注先は例えば駐在員の奥さんとか。見事な仕事をしてくれますよ。駐在員本人よりも、えてして奥さんのほうが優秀だったりするんです(笑)。それに安いですし。

実はサイボウズも最近、企業ロゴを新しくするのに、クリエイターを「ランサーズ」というクラウドソーシングサービスで募集したんです。1400個も応募が来ました。「ランサーズ」の過去最多記録だったようで。

大手食品会社が主婦に5万円で自社商品のキャッチフレーズを募集したこともありましたよね。いずれにせよ、クラウドソーシングなども使ってみないとその威力がわからない。そういうもので外部の力をうまく活用して、会社はなるべく小さくする、というのがこれからの流れになるでしょう。

“目に見えない大陸”をどう削り取るか

実はわたしは、クラウドは既存のビジネスを破壊するものかもしれないと思っていたんです。でも、実際にやってみるとそうではないことに気づきました。そこからまた新しい市場が生まれて、大きく成長している。これなら思い切って投資できるなと。

確かにクラウドは新興企業にとっては福音になりますよね。巨大なシステムを入り口で作る必要がないですし。エストニアがたったの10年ですごいシステムを作れたのも、クラウドがあったからですよ。小国とか後発とかも関係なくなりますから。

非常によくわかります。

僕は10数年前に、『The Invisible Continent(見えない大陸、日本語版は『大前研一「新・資本論」―見えない経済大陸へ挑む』)』という本を書きました。21世紀のサイバー社会は目には見えないが、見える人には見える。その“見えない大陸”をいかに削り取って自分の領土にするかが勝負になります。西部劇の世界で、ワイルドウエストに杭を打って牧場をつくるようなものです。

インビジブルな中で、この人とこの人はどういう関係で何をやっているかを削り取り、そこに必要なものを提供する、ということですね。

まさにそのとおりです。クラウドやSNSによって、末端の人と人とがつながる、真のユビキタス社会が実現できた。その“末端の人と人との関係”をプロトタイピングできれば、いいシステムが作れると思う。

立派な大学を出た人は“21世紀の絶滅危惧種”?!

今、世界では大きな革命が起こっているんだから、レガシーな考え方はいらない。だいたい会社の中でも、レガシーにどっぷり浸かっていて、既存のやり方に固執する人間が抵抗勢力になるんですよ。サイボウズにはそういう人はいないと思うけれども(笑)

いやいや、どうですかね(笑)

そういう意味で、僕はクラウドのシステムなんかは高校生に作らせたほうがいいと思っているんです。立派な大学を出た奴なんて、常識に凝り固まっていてダメだよね。そういう人間は、いい学校を出て、いい会社に就職して、といった既存の秩序に取り込まれていて、21世紀の絶滅危惧種のDNAを持っている。

絶滅危惧種ですか!(笑)

だったら高校をドロップアウトしました、みたいな奴にやらせてみたほうがいい。うちの次男なんて、行った学校を全部中退しているから。

ええっ、そうなんですか?

中学はドロップアウト、高校だけは卒業したかな。その後、USC(南カリフォルニア大学)でコンピュータを専攻していたけど「もう勉強することはない」なんて言ってそこも中退。なのに3年分の授業料は払わされて参りましたよ。まあでも、今はIT企業のNo.2でバリバリ働いていますから。ドロップアウトしたおかげで絶滅危惧種にならずに済んだ(笑)

好きでもないことを無理矢理やれる能力なんて、社会に出たらまったく必要ない

おもしろいなあ。大前さんの育児理論にもすごく興味があります。わたしは2回育児休暇を取ったことから、“育児をする社長”というブランドがついていて。育児に対する考えが変わらないと日本は変わらないと思っているんです。

僕は文科省の毒から子どもを守るのが親の務めだと思っています(笑)。息子に家で宿題をやれなんて言ったことないですよ。それじゃ家庭における先生の代行者になってしまいますから。宿題をやるくらいならゲームをやれと言っていました。

確かに、好きでもないことを無理矢理やれる能力なんて、社会に出たらまったく必要ないですからね。それよりも好きなことに思いっきり没頭できる能力のほうがずっと大事で。

そりゃそうですよ。21世紀にはレールはないのに、学校では“ここを行っても先はないよ”というレールをあえて走らせようとしている。だいたい、学校の先生なんてもっとも無精でリスクを取らない人間ですよ。大学を出る時に取った免許だけを頼りに一生メシを食っていこうとしているんだから。そんなのに子どもを預けてもロクなことにならない。

ははは!

とはいえ、僕も息子が中学生の時、成績が下がってきたので心配になったことがあって。お金を出すから家庭教師をつけろ、と言ったんです。そしたら息子は、学校の勉強を教えてくれる人じゃなくて、コンピュータプログラミングの先生を自分で探して連れてきちゃった。

頭いいですねえ!(笑) レールのないところを走りますねえ!

しばらくたった頃、うちにIBMの副社長が遊びに来て、息子と何だか難しい議論をしていたんです。それが終わったら息子に、「今すぐIBMに来て働け」とオファーをしていて。あれからサボりだしたんだな。もういつでも就職できるから大丈夫だって(笑)

すごい話だなあ。

いずれにしても、ビジネスにせよ何にせよ、自分でレールを作って「この道で行く」と決めてやった奴が勝ちますよ。21世紀には今までとまったく違う人種が必要。今の日本では、20世紀型の人間を育てる教育にマジョリティがはまっているのが問題で。実際、学習指導要領のないスポーツや音楽、芸術の分野では、優秀な日本人がたくさん出ているじゃないですか。

教育の分野でも、今までのルールを壊していかないといけないですね。

おっと、ちょっと話がそれたけど(笑)、講演はしっかり準備していますから安心してください。

ありがとうございます! 私自身もすごく楽しみにしています!

文:荒濱一、撮影:橋本直己

2014年8月28日日本人全体が働く意識を変えなければならない時期が今だ――元アップル社長 前刀禎明×サイボウズ 青野慶久社長

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執筆

ライター

荒濱 一

ライター・コピーライター。ビジネス、IT/デジタル機器、著名人インタビューなど幅広い分野で記事を執筆。著書に『結局「仕組み」を作った人が勝っている』『やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)。

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撮影・イラスト

写真家

橋本 直己

フリーランスのカメラマン・エディトリアルデザイナー。趣味は尺八。そして毎日スプラトゥーン2をやっています。

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