この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • ビジネスパーソン
  • 保護者
  • 教育関係者
  • デジタル依存が気になる人
  • オンライン会議の有効性を考える人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事から得られる知識は、スマートフォンの過度な使用が脳に及ぼす影響や、それに対する対策についてです。特に、1日3時間以上スマホを使うことが子供の勉強の成果に悪影響を与える可能性が指摘されています。これは、スマホ使用時には脳の前頭前野が活発になりにくく、その発達に重要な負荷がかからないためです。

また、大人でもスマホを長時間使用することで脳への負荷が減り、前頭前野の萎縮が早まる可能性があります。記事では、デジタルデバイスの使用をアナログと組み合わせ、使い分けることで、脳に与える悪影響の軽減が重要とされています。特に、紙の本やノートを使用することが、認知機能の向上に効果的であると述べられています。

オンライン会議については、対面会議に比べて参加者間の脳の「同期」が少なく、共感が得にくいことが実験結果として示されています。オンライン会議がすべて悪いわけではなく、会議の目的に応じて対面とオンラインを使い分けることの重要性も強調されています。

総じて、デジタルデバイスに対して自己コントロールを持ち、アナログにできないことをデジタルで補完するという使い方が推奨されています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

スマホは思考力を奪う。脳科学で考える、デジタルとアナログの使い分けとは?──東北大学・榊浩平 

「スマホを3時間使うと、いくら勉強しても成績が上がらない」
「オンライン会議では共感が生まれない」

これは、2023年に刊行された『スマホはどこまで脳を壊すか』 (朝日新聞出版)で紹介されている衝撃的な実験結果です。

生活に欠かせないスマホ、仕事で毎日使うオンライン会議が脳に悪影響をおよぼすとなれば、「なにか対策をしなければ……」と思うものの「スマホやオンライン会議は脳に悪いから一切使わない」というのも、現実的ではありません。

『スマホはどこまで脳を壊すか』の著者、東北大学 応用認知神経科学センター 助教 榊 浩平氏は「機械に使われるのではなく、自分で使いこなす意識を持つことが大切」「デジタルを使うなら、アナログでは達成できないことを実現するために使おう」と説明します。詳しいお話を伺いました。

スマホを3時間使うと、勉強の成果がゼロになる?

──本日はありがとうございます。仕事でもプライベートでも欠かせないスマホが「脳を壊す」と知り衝撃的でした。

子どもの学力とスマホの利用時間の関係についての調査結果。1日3時間以上スマホを使用した子どもたちは勉強時間や睡眠時間によらず平均すると偏差値が50未満だった。出典:榊 浩平(著)川島 隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)

『スマホはどこまで脳を壊すか』で詳しくご紹介したとおり、子どもを対象にした調査で「1日3時間以上スマホを使用した子どもたちは、きちんと睡眠時間や勉強時間を確保していても、平均すると成績が平均未満である」ことがわかりました。

人間の脳は生まれたときは未熟な状態で、幼少期から成人するまでの間に徐々に発達していきます。

ものごとを考えたり覚えたりする知的活動には、脳の前方にある「前頭前野」が大きな役割を果たしています。

前頭前野には「計画を立てて実行する力」「感情を抑制する力」「他者とコミュニケーションをする力」「集中力の持続や切り替えを行う力」などの重要な機能が集まっていて、だいたい10歳ごろから20歳くらいまで急激に発達が進み、30歳ごろには完成されるといわれています。

前頭前野は「使えば育つが、使わないと衰える」という性質を持っています。脳の中ではさまざまな情報が神経細胞の繋がりを通して処理されますが、よく使う回路は強化され、使わない回路は減っていくのです。運動をするとき、よく使う筋肉は強くなり、使わない筋力は衰えるのと同じようなものです。

これまでの脳科学の研究で「スマホのようなスクリーンがあるデバイスを操作しているとき、脳の前頭前野はなかなか活発にならない」ということがわかってきました。

詳しい生物学的な原因はまだわからないのですが、基本的に機械というのは人間に楽をさせるために生まれています。便利な機械は脳の負荷を下げる、シンプルにそういうことだと思います。

過去の研究結果や今回の子どもたちの調査をふまえると「前頭前野が発達する過程でスマホを使いすぎると、脳に適切な負荷がかからず発達に悪影響が出てしまう」ということがわかってきました。

榊 浩平(さかき・こうへい)。1989年千葉県生まれ。東北大学 応用認知神経科学センター 助教。2019年東北大学大学院医学系研究科修了。博士(医学)。人間の「生きる力」を育てる脳科学的な教育法の開発を目指した研究を行なっている。共著に『最新脳科学でついに出た結論「本の読み方」で学力は決まる』(青春出版社)がある

たとえばみなさんも「検索して調べたことをすぐ忘れてしまう」という経験はありませんか。

脳はとてもエネルギーを使う臓器なので、なるべく楽をするように動きます。検索で得た情報を見たとき、脳は「この情報は、すぐに調べられるから覚える必要がない」と判断しているのではないかともいわれています。その代わり、スマホの画面をタップすれば情報を得られるということだけを覚えるようになるのです。

また「脳はマルチタスクが苦手」という特徴もあります。同時に2つのことをやっているつもりでも、脳の中では頻繁に注意を切り替えているのです。勉強中にスマホの通知がピコンッと鳴って注意が移る……という状態が続くと、脳へのストレスとなり、集中力低下を招きます。

実は、調査の計画段階では「スマホの影響を調べよう」とは考えていませんでした。

今回の調査は、東北大学と仙台市教育委員会との共同研究で「子どもたちの学力や学習意欲と生活習慣の関係を探る」プロジェクトの中で行いました。

睡眠、勉強、読書など、さまざまな生活習慣を網羅的に分析したところ、子どもたちの成績に一番、悪い影響を与えていたのがスマホだったのです。

『スマホはどこまで脳を壊すか』 (朝日新聞出版)スマホを常用し、脳にラクをさせていると、成長期の子どもなら脳発達が大きく損なわれ、成人なら不安・抑うつ傾向が高くなることが明らかに。最新研究で見えてきた衝撃の未来に、緊急提言した一冊

——「前頭前野は30歳くらいまでに完成される」ということは、大人がスマホを使う場合は脳に影響はないのでしょうか?

今回の調査は小学2年生から中学3年生の子どもが対象でしたが、同じことは大人でも起こり得ます。

たとえば毎日資格の勉強をしていたとしても、スマホを長時間使ってしまうと、勉強の効果が薄れてしまうということです。

おっしゃるとおり、前頭前野は30歳ごろまでに完成しますが、その後は加齢に伴って萎縮していきます。このときも「使えば育つが、使わないと衰える」性質のとおり、日ごろからよく使う神経細胞の回路は萎縮が遅く、使わない回路は早く弱まっていきます。

スマホによって脳の活動が少なくなると、最悪の場合、前頭前野の萎縮が早く進んでしまい、知的活動に必要な脳機能が弱くなってしまう可能性もあるのです。

最近は学習のためのスマホアプリも多くあります。すべてのアプリについて、個別に検証することは現実的に難しいので、それらに全く効果がないとは言い切れません。アプリによって今までは使えなかったような機能を活用して勉強できるメリットもあるでしょう。

しかし、もしスマホも紙もどちらも使える環境であれば、紙の本やノートを使うほうが脳は活性化します。ページをめくったり字を書いたりする動作、本の中から情報を探す動作などによって脳に負荷がかかり、その負荷によって認知機能が向上するからです。

子どもたちは「脳がどう育つか」、大人は「脳の衰えをどう抑えるか」という逆の話になりますが、スマホの影響としては同じような現象が起こり得ます。

脳の思考力を守るために、スマホの利用方法の見直しを

──なるほど……。子どもだけでなく、大人でも同じことが起こりうるというのは耳が痛いです。「常にスマホを触ってしまう」というビジネスパーソンも多いと思いますが、脳への悪影響を少しでも減らすためにはどうすればよいのでしょうか?

今回の調査結果では「どんなアプリでもスマホは成績に一定の悪影響を与える」ということがわかってきました。ただしアプリによって影響の濃淡はありました。

成績への悪影響が比較的大きかったのは、ゲーム、動画、音楽のアプリ。まだマシだったのは、地図やニュースなどでした。

ポイントは「受動的か能動的か」です。漫然と眺めるだけのアプリよりも、なにかを調べるアプリのほうが、脳を使うということでしょう。

ただしSNSについては、さまざまなリスクが混在しています。「いいね」で承認欲求が満たされることで依存性が高まり「ずっと見てしまう」状態になれば、いくら能動的に発信していても悪影響のほうが大きくなってしまいます。

また、短いテキストや動画でパッとおもしろい情報が得られる短期的な快楽に慣れることで、長文を集中して読めなくなってしまう影響もあるでしょう。

わたしの場合は、数年前に私生活におけるスマホの利用方法を大幅に見直しました。利用するアプリは決済や地図などに限定し、通知も切りました。チャットやニュースは、1日1回、夕ご飯を食べたあとにまとめてチェックするようにしています。

仕事や生活環境によっては、チャットやニュースをリアルタイムで確認しなければならない状況もあるでしょう。ただ、少なくとも私生活の上ではある程度の制限は可能だと思います。実際、わたしの場合は、リアルタイムで見なくても、大きな支障はなかったのでこのような使い方にしています。

利用方法を見直してから随分経ちますが、一番の大きな変化は「スマホに使われていた感」がなくなったことです。使うタイミングを自分で決められるようになりました。

大人はこのように自分で判断してスマホの利用方法を決められますが、子どもたちはそれがより難しくなります。

わたしの考えでは、子どもにスマホを与えるのは、遅ければ遅いほうがよいと思います。

もちろん、SNSや動画サイトなどを全く使うなというわけではありません。日々の連絡に必要でしょうし、ネットリテラシーを学ぶ機会も大事です。

たとえば「SNSや動画は1日1回リビングに置いたパソコンで見るようにする」などのルールを家庭でつくってみるのはいかがでしょうか。

どこへでも持って行けるスマホに比べると、デスクトップパソコンは使用場所を限定できるため、脳への影響を比較的抑えることができます。

重要なのは大人もいっしょにそのルールを守るということです。子どもは親の背中をよく見ています。家族みんなで協力して取り組むことで、子どもの脳の発達だけでなく、大人の脳の健康も守ることに繋がるでしょう。また、親子で共通の目標に向かって挑戦することで、家族の結束力が高まり、親子関係の改善も期待されます。

「スマホでなくてはいけない」という固定観念を外して、柔軟に考えることが大切です。

「波長が合う」の正体。オンライン会議では「共感」が起きにくい?

──スマホとの付き合い方、大変勉強になります。もう一つ気になるのが「オンライン会議」です。書籍に書かれていた「オンライン会議では脳の同期が起きない」という実験結果には驚きました。

コロナ禍で会議がオンラインに置き換わったとき、「昔の対面会議のほうが活発だったし、参加して楽しかったし、発表内容とかもよくわかったな」と感じることがありました。そこで、対面の会議とオンライン会議で脳の反応を調べてみることにしました。

脳の活動は常に上がったり下がったりしながらゆらいでいます。このリズムは一人ひとり違うのですが、対面で会話をしていると、ある程度リズムがそろってきます。これを脳の同期といい「共感」「共鳴」という感覚につながるといわれています。「波長が合う」という比喩表現がありますが、科学的にも実際に波長があっているんですね。

しかし、オンライン会議をしているときは、参加者同士の脳の同期が見られず、ひとりで静かにしているときの脳活動とほとんど同じ反応を示していました。

オンライン会話と脳の同期の関係についての実験結果。縦軸が高いほど脳が同期していることになるが、オンラインで話しているときは、ひとりで静かにしているときと同期の度合いがほとんど変わらなかった。出典:榊 浩平(著)川島 隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)

わたし自身、オンライン会議でも議論をしている感覚はありますし仕事も多少は進むので、「ひとりでなにもしていないときとほとんど同じ」という計測結果は予想外でした。

原因としては非言語コミュニケーションの欠落が大きいと考えています。中でも重要な要素は目線です。他の研究で「言葉を交わさなくても目線を合わせるだけで脳の同期が上がる」という結果も出ているくらい、目は強烈なシグナルを持っています。

オンライン会議だと目線を合わせることが難しいですし、表情も読み取りづらいですよね。身振り手振りやうなずきも分かりません。これらの情報の欠落が「脳の同期が起こらない」という実験結果につながったと考えています。

──目線がそこまで重要な働きをしているとは意外でした。とはいえオンライン会議をなくすことは難しいと思います。なにか対策できることはあるのでしょうか?

オンライン会議がすべて悪いわけではなく、目的がなにかを認識した上で選択することが大切です。

今回のような取材も最近はオンラインが増えましたが、もし「相手の懐に入り込み、より深い話まで聞き出したい」と思うなら、手間をかけても対面で行うほうが良いでしょう。相手と仲良くなったり、信頼関係を築いたりするためには、脳の同期、つまり共感やつながりが必要だからです。

また、ブレインストーミングのような、前頭前野を使って創造的なアイデアを生み出すような会議についても、同様に対面のほうが向いているといえるでしょう。

共感が重要ではない活動、たとえば情報伝達だけが目的の形式的な会議などは、オンラインで問題ないと思います。そのほうが時間やお金を節約して、別の創造的な活動や対面コミュニケーションを増やせるでしょう。

また、遠方にいる人で、なかなか対面での会議が設定しにくい状況もありますよね。その場合は、たとえば「10回に1回は対面で話すようにする」とか「オンライン会議の中でなにか創造的な話題が盛り上がったら、次は対面の会議で話す」などの運用も考えられます。

どちらかがよい、悪いではなく、目的に合わせていろいろなやり方を試してみるのがよいと思います。

学びを定着させるアクティブリコール

──ありがとうございます。ここからは、サイボウズの働き方についても、ぜひ先生のご意見を伺いたいです。弊社ではオンラインで勉強会を行う際、感想や質問を「みんなで共有しながら進める」文化があるのですが、脳科学の観点から、こうしたオンラインによる協働学習は効果的なのでしょうか?

勉強会の参加者は、kintoneで作られた「実況スレッド」に感想や質問をコメントする

勉強会ということでしたら、最終的に「勉強した内容が自分の中にどれくらい残っているか」が大切だと思います。

たとえば「ひとりで動画を受動的に見るだけだと、途中から集中力が落ちて違うことをやってしまう」という状況があるなら、能動的に感想や質問を書き込むことで、動画に集中できるメリットがあると思います。一方で、コメントを打ち込むことに一生懸命になってしまい、内容が頭に残っていなければ勉強会の目的は達成されません。

勉強会が終わったあと、記憶を定着させるためにおすすめの方法は「人に話すこと」です。わたしも動画で勉強することがありますが、見たあとに動画の内容を、あたかも自分がその研究してきたかのように、人に話すようにしています。

人間って、情報を引き出しに入れるのは得意なのですが、引き出すのは苦手なんです。どこの引き出しに入れたかわからなくなってしまうんですね。このため記憶に定着させるには、思い出す練習をすることが大切です。「アクティブリコール」と呼ばれますが、わたしはなにかを学ぶ際にいつもこれを心がけています。

ツールに支配されないために「小さく実験」「軸足は自分に」

──新しいツールを使う際に「便利になること」ばかりを見てしまい、それを使うことによるデメリットに気づかないこともあると思います。冷静に見極めるよい方法はあるのでしょうか?

まずは小さく実験をするのがいいと思います。実際にツールを使ってみて、自分がどのように変化するかを試すんです。使う前後の自分をよく観察して、便利になる部分と失われる部分を洗い出し、リストアップしていきます。

組織でツールを使う場合は、実験をとおして、それぞれのメンバーが大切にしたいものが見えてくるでしょう。「わたしはこっちのほうを優先したいな」「いや、こっちも大事だよね」という議論が生まれることが大事だと思います。

新しい技術を頭ごなしに否定する必要はないと思いますし、反対に古い方法を非効率だと切り捨てる考えも違うと思います。

大事なのは、軸足が自分にあることです。ツールに使われるのではなく、自分の意思でツールを使うようになればよいと思います。

デジタルを使うなら「アナログではできないこと」を

──「軸足は自分にあること」これはどんなツールを使うときにも心に留めておきたい考え方ですね。

サイボウズさんがリモートワークをやめない理由は「多様な人がいたほうが、会社として成長できると考えているから」と聞きました。

このように「なぜツールを使うのか」を説明できることが大切だと思います。

脳科学の視点で考えると、デジタルとアナログで同じことをするなら、アナログが勝ちます。アナログのほうが脳に負荷がかかり、負荷がかかったほうが脳は活性化しますから。

そんな中でもデジタルを使うなら「アナログでできないことをやる」ために使いたいですよね。

リモートワークについても「遠方の人といっしょに仕事をする」「家庭や身体的な事情でオフィスに来られない人といっしょに仕事をする」「台風や感染症の危険を避けて仕事をする」などが目的だったら、メリットの方が大きくなります。アナログでは置き換えることが難しいことがやれたり、コストを大幅に削減できたりしますから。

スマホもそのほかのツールも所詮は計算機です。自分がやりたいことをサポートしてもらうものであって、機械に使われるようになってはいけません。

「どのような目的で、なにを得るためにツールを使うのか」を明確に、常に自分を軸足に置く。そうすることで、ツールに支配されず、自分の意思で使い方を決められるようになると思います。

──本日はありがとうございました。

企画・執筆:山本悠子(サイボウズ) 撮影:尾木 司

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執筆

編集部

山本 悠子

新卒で大手メーカーで勤務したのち、2016年にサイボウズへ入社。製品プロモーションやWebディレクションの経験を経て、サイボウズ式編集部に。組織づくりや働き方に興味があります。

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