
「お客様第一」で品質を守る最後の砦。鈴鹿製作所の“台風の目”をめざす若手エンジニア

-
-
- 自動車業界で働くエンジニア
- 製造業界に興味があるキャリアチェンジを考えている人
- 品質管理やプロダクトマネジメントに従事する人
- Hondaなど大手自動車メーカーでのキャリアを目指す人
- 企業文化や職場環境について詳しく知りたい方
-
-
記事を読むと、鈴鹿製作所で行われている製品技術課の取り組みについて理解できます。特に、品質保証を担当する木村和志がどのようにして成長しているのか、彼の仕事内容やキャリアパス、そして鈴鹿製作所の特徴について知ることができます。また、製品技術課がどのように実車を用いて品質を検証し、お客様にとってより良い製品を届けるための最後の防波堤となっているかが詳しく説明されています。
鈴鹿製作所は、Hondaの国内最大の自動車生産拠点であり、国内外の工場の標準化をリードする役割も担っています。この記事を通じて、鈴鹿製作所がどのように人間尊重の哲学を実践し、社員が協力して品質向上に取り組んでいるかという職場文化にも触れられます。また、空力と風切り音に関する技術者だった木村が、どのように自らの希望でADAS(先進運転支援システム)の領域にもチャレンジしているかといった具体例を通じて、Hondaでのキャリア拡大の可能性についても知識が得られます。さらに、これからのキャリア展望として、木村がどのようにして品質のスペシャリストを目指しているのか、その意志や取り組み方についても触れられています。
-
-
鈴鹿製作所で「品質の最後の砦」として実車を通した検証を行っている製品技術課。キャリア入社2年目にして、自ら担当領域を広げながら成長する木村は、どんなやりがいを感じているのでしょうか。上司である井上、梅枝と共に、鈴鹿製作所で働く魅力とこれからのキャリアについて語ります。
木村 和志Kazushi Kimura
四輪生産本部 生産統括部 鈴鹿製作所 完成車保証部 製品技術課
新卒で国内の完成車メーカーに入社し、空力・風切り音の開発を担当。よりお客様に近いところで仕事をしたいという想いから、2024年1月Hondaにキャリア入社。シャーシ領域の検証担当からスタートし、現在はADAS(先進運転支援システム)領域も担当している。
井上 武士Takeshi Inoue
四輪生産本部 生産統括部 鈴鹿製作所 完成車保証部 製品技術課
2005年Hondaに新卒入社。以降、鈴鹿製作所でエンジン・トランスミッションの新機種の品質熟成、出荷保証手法の構築、パワートレイン領域での品質保証チーム・グループのマネジメントなどを経験。現在は完成車保証部でBEV事業拡大に向けて製品技術課のマネジメントを担う。
梅枝 真守Masamori Umegae
四輪生産本部 生産統括部 鈴鹿製作所 完成車保証部 製品技術課
2005年Hondaに新卒入社。栃木にある拠点でイモビライザー登録装置やブレーキ液注入装置など生産設備の開発導入を担当。2017年にチャレンジ公募を利用して鈴鹿製作所 完成車保証部に異動。新機種、量産機種のADAS領域の品質保証を担当。現在は電装領域、シャーシ領域の品質保証を担うグループのマネジメントを担当。
品質を高めるために、できることは何でもやる。“オールHonda”で最後の砦を担う
三重県鈴鹿市にある鈴鹿製作所。国内にあるHondaの四輪生産拠点のなかで最大の生産量を誇ります。
井上「鈴鹿製作所は、いくつかの重要な役割を担っています。まずは、軽自動車のNシリーズやFIT、VEZELなど販売台数の多い車種の生産を行っていること。
次に、中長期的な視点では、国内のEV(電気自動車)戦略の重要拠点として位置付けられていること。国内市場にEVを浸透させていくため、現在は軽自動車のEV生産を鈴鹿製作所で始めています。
そして、これは他の国内生産拠点も同様ですが、海外拠点のサポート役も担います。新しい技術や機構、新機種における製造や品質のオペレーションを私たちが確立し、標準化した上で海外に展開しています」
2005年の入社以来、鈴鹿製作所に勤務する井上も、他拠点での勤務経験がある梅枝も、鈴鹿製作所の特徴を「人のつながりを大切にするカルチャーがあること」だと話します。
井上「Hondaは『人間尊重』というフィロソフィーを掲げていて(※)、もともと人を大切にする文化がありますが、鈴鹿は地方にある拠点ということもあり、とくに人と人とのつながりを大切にする風土があると感じます。一人ひとりの個性を大切にしながら一緒に良いものを作っていこうという姿勢があるのです」
梅枝「お客様により良いものを届けようという目的が明確ですよね。誰かが困っていたら部署の垣根を超えてあっという間にメンバーが集まり、全力で解決に向けて取り組む文化があります。Hondaには、キャリアや年齢に関係なく正しい目的を持っている人には協力を惜しまない文化がありますが、鈴鹿も同様です」
お客様により良いものを届ける──3人が所属する製品技術課は、まさにその「最後の砦」ともいうべき部署です。
井上「私たちは、“完成車1台分”の品質保証を担う部門です。開発部門が作成した図面の検証を行い、試作車両などの実車検証で仕様の正確さや製造のばらつきがないかといった品質の確かさをチェックすることで品質向上に努めています。
『お客様第一』で仕事に取り組むことはもちろん、部署にとらわれることなく『品質を高めるために、できることは何でもやる』を合言葉にしています」
梅枝「そうですね。先ほど部署の垣根を超えて協力するという話をしましたが、さらに垣根を超えて設計部門やお取引先にも働きかけたり、海外拠点のサポートをしたり、“オールHonda”でお客様のために尽くす姿勢が浸透しています」
木村「クルマは決して安い製品ではありません。不具合の確率が1,000台に1台だったとしても、その1台を購入してしまったお客様はとても悲しい思いをされます。だからこそ、不具合を見つけた場合は必ず直すという気持ちで取り組んでいます」
※ Hondaフィロソフィーは、 「人間尊重」「三つの喜び」から成る“ 基本理念”と、“社是”“運営方針”で 構成され、「人間尊重」は「自立」「平等」「信頼」の3つを柱としています。
https://global.honda/jp/guide/philosophy.htmlベテランエンジニアの勘所を学びながら品質向上のスキルを身につける
2024年にHondaにキャリア入社した木村。前職では、国内の完成車メーカーに勤務していました。
木村「前職に入社したのは、昔から乗り物が好きだったことと、就職活動中に出会ったリクルーターの印象が良く、風通しの良い環境で仕事ができると感じたことです。入社後は、空力(=空気抵抗)や風切り音を低減するための開発を担当していました」
転職を考えるようになったきっかけは、「もっとお客様に近いところで仕事がしたい」という想いが湧いてきたことだったと言います。
木村「空力や風切り音低減の開発は、開発が終わってからお客様のもとに製品が届くまでに数年かかります。お客様から製品のフィードバックをいただくまでに長い期間がかかってしまうことに、もどかしさを感じていました。
ただ、もともと空力エンジニアとして入社したこともあり、異動は難しいという状況があったのです。そこで転職を考え始めたところ、現在の部署の求人に出会いました。
じつは、就職活動時にHondaの選考も受けていて、仕事のことを熱く語る姿や年齢関係なく意見が言える環境に魅力を感じていたので、それも決め手になりました」
入社後は、サスペンション、ブレーキ、ステアリング、タイヤ部品などの足回りの検証を担当。その後、自ら希望を出して担当領域を増やしてきました。
木村「近年、自動運転の注目度が高まっていることもあり、先進機能にも挑戦したいと思っていたのです。そこで、ADAS(先進運転支援システム)領域も担当したいとお願いしました」
梅枝「私たちの部署では、複数の領域を担当することはよくあります。とくに、クルマの在り方が変わりつつある今は、機械と電気と制御の複合的な機能を見ることができるエンジニアを育てていくことも必要ですから、その領域に挑戦したいという希望は歓迎でした」
前職で担当していた業務とは異なる業務に挑戦している木村。マニュアルだけではなく、ベテランエンジニアから勘所を学びながら知識やスキルを身につけていると話します。
木村「実車を使って検証を行う際などは、ベテランエンジニアに一緒に乗ってもらい、どこを見ているのか、どんなフィーリングを大切にしているのかなどをヒアリングしています。マニュアルを見て学ぶことは自分ひとりでもできますが、やはりベテランエンジニアの観点を知ることが一番の近道だと思っています」
時間との闘いのなかでも、目的や在るべき姿を忘れずに原因を追究する
お客様に近い場所で仕事がしたい──その想いをかなえ、「最後の砦」として品質を守る木村。「お客様第一」を実現するための取り組みは、時には時間との闘いになることも。
木村「ある車種で部品の不具合を発見したことがありました。けれど、不具合にバラつきがあり、その原因がどこにあるのかは、開発部門も部品を扱っているお取引先も明確にわからなかったのです。しかも、私たちが不具合を見つけるタイミングは、すでに発売までの日程が決まっているため、対策するための時間も限られています。
そこで、まずは生産ラインに待機している部品、お取引先の倉庫に並んでいる数百個の部品を一つひとつ手に取り、五感を頼りにバラつきが起きそうだと感じるものを計測。不具合の原因に目処をつけ、関係各所と連携しながら原因究明を行いました」
周囲を巻き込みながら、無事、期日までに解決にこぎつけた木村をサポートした梅枝と井上は、その姿に頼もしさを感じたと振り返ります。
梅枝「当初は恐る恐る行動している雰囲気もありましたが、新人だからと気後れすることなく“台風の目”になっていく積極性があることが長所です。目覚ましいスピードで皆を引っ張っていく存在になっています。
もちろん、自分勝手に動いているというわけではなく、きちんと周りに相談して、協力を得ながら進めている。案件をマネジメントしながら成功に結びつける力を身につけていると思います」
井上「私から見れば、入社時からフットワークが軽くて自分からいろいろな提案をしている印象です。先ほどの不具合の原因究明においても、新しい計測ツールを用いた解析手法を自ら提案して、対策につなげてくれました。思いつきではなく、ロジックに基づいて必要なことを明確にしていると感じます」
木村「そうですね。何事も目的や在るべき姿を忘れずに、それを達成するためには何がいつまでに必要なのかを考えて計画するようにしています」
そして、自分の意志を持って提案できる風土は、Hondaの魅力のひとつだと木村は話します。
木村「たとえば同じシリーズの機種だとしても、開発の仕方にそれぞれの担当者の意志が反映されていると感じます。だからこそHondaは、個性豊かなクルマを生み出せるのだと思います」
魅力あふれる鈴鹿で描く、品質のプロフェッショナルへの道のり
木村は、Hondaへの入社を機に三重県に移住。仕事だけではなく、新たな環境を楽しんでいます。
木村「鈴鹿は山や海が近く、自然が豊かです。私は趣味でオフロードバイクに乗っていて、山道などを走行するエンデューロというモータースポーツを楽しんでいるのですが、三重県には有名なコースもありますし、林道ツーリングができる場所もありますから、週末は夫婦で趣味を楽しんでいます。
また、名古屋や大阪にもアクセスしやすく、生活する上でも便利です。さらに、F1日本グランプリや鈴鹿8時間耐久ロードレースなどが開催される鈴鹿サーキットもあり、乗り物好きにはたまりません。
製品技術課はフレックスタイム制を導入しているため、プライベートの予定に合わせたスケジュールが組みやすく、ワークライフバランスが向上しました」
公私共に充実した環境で成長を続ける木村に、梅枝と井上からは、さらなる期待が寄せられます。
梅枝「第一段階としてめざしてほしいスキルは身についたと思います。次は、ベテランエンジニアからスキルをさらに吸収して、それを後輩たちに伝承していってほしいですね。
また、今担当している先進領域は、これからさらに高度化していきます。より複雑になっていくクルマに対して品質を守るための技術を学び進化させること。この伝承と技術進化の両面を高めてほしいと期待しています」
井上「私が期待するのは、『木村らしさ』です。今私たちは、『HondaらしいEVとは何か』を模索しています。『Hondaらしい品質とは』『Hondaらしい個性とは』を追求するためには、個性と個性が融合しながら新しい価値を生むことが必要。お客様に心から楽しんでもらえるものを作るには、まずは自分らしく働いていることが大切だと考えています。
そして将来的には、品質のスペシャリストになってほしい。新機種が生まれてからお客様に届くところまでを一貫して見られることが製品技術課の特徴。その環境でグローバルに活躍できる人材に成長してほしいと思っています」
ふたりからの期待を受けた木村は、自身のこれからのキャリア展望をこう語ります。
木村「この部署に配属された時の自己紹介で、『IQS(自動車の初期品質に関するユーザー評価)をトップにします』と宣言しました。その宣言を実現することはもちろん、日本だけでなく海外のお客様にも満足していただけるように、鈴鹿で培った知識をグローバルに展開していきたいと思っています。
その第一歩として、実車に乗って感じたフィーリングから、なぜそのようなフィーリングになったのかをロジックとメカニズムに紐づけて考えられるエンジニアになりたいですね」
自分らしい働き方と意志を大切に、時には周囲を巻き込む台風の目になりながら、お客様第一を追求していきます。
※ 記載内容は2025年7月時点のものです