
[Vol.15] 「2025年の崖」をいかにして超えるか

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- 経営者
- ITマネージャー
- ビジネスアナリスト
- 企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)担当者
- ITプロフェッショナル
- 事業戦略担当者
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この記事からは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を成功させるためには、事業、業務、ITの三位一体を考える必要があることがわかります。ITはもはや業務を支える道具ではなく、事業そのものや経営戦略に対等に位置付けられる重要な要素です。また、多くの企業ではレガシーシステムが存在し、その更新が急務であるが、まだ対応が進んでいないという実情も指摘されています。
さらに、日本のDX推進が遅れている要因として、IT投資の多くが既存のビジネス維持に使われており、新しい施策展開のための予算が十分に確保されていない点や、IT人材の不足感が影響していることが挙げられます。この結果、企業がレガシーシステムからの脱却を進められず、DXの進展を阻害しています。
記事は、DXを推進するには経営者自身が主体的に取り組む必要性を強調し、「2025年の崖」という経済産業省のDXレポートが示すように、ビジネスの変革が間に合わないと大きな経済損失が予測される事態を回避するための行動を促しています。
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事業と業務とITの三位一体で考え取り組む「DX企業」が勝ち残る
「ビジネスを設計する上で、ITシステムを含めて考えることは必須。事業と業務とITを三位一体と捉え取り組むのが「DX企業」です。」 独立行政法人 情報処理推進機構
参与
室脇慶彦 さん 1982年に大阪大学基礎工学部を卒業し、現在の野村総合研究所に入社。2015年に野村総合研究所理事に就任。2019年より現職。専門はITプロジェクトマネジメント、IT生産技術など。著書に『IT負債 基幹系システム「2025年の崖」を飛び越えろ』がある。――近年、ビジネス環境の変革を語る上でDXが重要なキーワードになっています。DXについて教えてください。
経済産業省がまとめた『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン』では、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。つまり、これまで業務の効率化のために使われてきたITをより広い範囲に適用し、競争力を高めていく取り組みということになります。そうした取り組みが進むことで、ITは事業の姿を変え、経営戦略にも深い関わりを持つことになります。
例えば航空会社の場合、以前は旅行代理店を通じて航空券を販売していましたが、現在では多くの人が航空会社が運営するECサイトから、直接航空券を買っています。DXが進んだ結果、航空会社は「運輸業」から「運輸・販売業」へと事業そのものが変化したわけです。当然、経営戦略も「運輸・販売業」であることを前提に変わらざるを得ません。一方、これまで代理店業や小売業は「売場」を持っていることが強みでしたが、今ではそれが弱みにすらなりつつあります。
従来のITは、業務を支えるものという位置付けでした。まず事業とそれを進めるための業務があり、ITシステムは業務を行うための「道具」でしかありませんでした。しかし、ITの適用範囲が広がったことで、ITの利用を前提に考えなければ、ビジネスの姿を描くことができないほどの存在になっています。
DXを推進していくには、ITの「業務を支える道具」という位置付けを改める必要があるでしょう。ITを事業、業務と対等に位置付けて考えなくてはならないということです。
こうした傾向は、急激に高まっています。今後はITと事業、業務を三位一体として考えてDXを推進し、市場の変化に即座に対応できる「DX企業」でなければ勝ち残ることはできません。
変化についていけないレガシーシステムがビジネスの障壁に
――経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」は、日本のDXの遅れを指摘し、「2025年の崖」に向けた対策の必要性を説いています。「2025年の崖」について教えてください。
DXの本質は「いかにITの可能性や制約に対応した方法をとるか」という点にあります。つまり「ITで何が可能になるのか」だけでなく、「ITでどんな制約が生じるのか」にも目を向けることが重要です。そこで日本企業の現状を見てみると、ITによる制約の方に目を向けざるを得ません。作ってから長い年月がたったITシステムがビジネス環境の変化に対応できず、それがビジネスの障壁になる場面が増えているのです。
障壁をつくっている大きな原因の一つが、レガシーシステムの存在です。レガシーシステムとは、構築から時間の経過とともに肥大化・複雑化、ブラックボックス化が進み、全貌と機能の意義が分からなくなったITシステムのことです。
ITシステムはソフトウエアとハードウエアで構成されますが、ソフトウエアには、作った後も機能を追加することで成長するという特徴があります。しかし、機能を追加すればするほど、どんどん複雑になっていきます。例えれば、建て増しによって本館、旧館、新館が複雑につながった旅館のようなもので、全貌がつかみづらく使い勝手も悪くなります。
ソフトウエアが動いているハードウエアに起きた技術変化も、状況を複雑にしています。日本でITシステムの導入が始まった当初は、メインフレームと呼ばれるハードウエアが使われていました。その後、サーバー・クライアント、仮想化、クラウドなど、新しい技術が登場しましたが、全てが新しい技術に置き換わったわけではありません。古いものも継続して使われています。つまりハードウエアでも、建て増した旅館のような状態が生まれているわけです。
「デジタルトランスフォーメーション」の現状と「2025年の崖」問題
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① 「DXレポート」が指摘する「2025年の崖」
経済産業省は「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」で、ブラックボックス化したシステムがDXの進展を阻害していることを指摘。克服できない場合は2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が発生する「2025年の崖」が訪れるとしている(※1) -
② ビジネスのデジタル化への取り組み
AI、IoT、RPAなどを活用したビジネスのデジタル化に取り組む企業は増加傾向にあり、約2割が「商品・サービス」「業務プロセス」ともにデジタル化を行っている一方で、約3割は未実施となっている(※2) -
③ 日本企業におけるIT予算の配分
企業における現行ビジネスの維持・運営のために必要な「ランザビジネス予算」はIT予算全体の約8割を占めており、ビジネスの新しい施策展開のための「バリューアップ予算」を十分に確保できていない(※2) -
④ 日本とアメリカとのICT投資の違い
1989年から2017年までの日本とアメリカのICT投資額を比較すると、アメリカでは約4.4倍に増加しているが日本ではほぼ横ばい。ソフトウエア投資の内訳では、日本では受託開発が88.3%を占めているのに対し、アメリカでは33.8%にとどまっている(※3) -
⑤ 進まないレガシーシステムからの脱却・更新
9割以上の企業が、技術面の老朽化やシステムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化によってシステムの全貌と機能の意義が分からなくなった「レガシーシステム」からの脱却・更新の必要性を感じている一方で、いまだ8割以上がレガシーシステムを利用している(※4) -
⑥ ユーザー企業におけるIT人材の確保
企業におけるIT人材の過不足感に関する調査結果からは、「質」については87.9%、「量」については85.4%と、どちらも9割近い企業が業務戦略上必要なIT人材を十分に確保できていないと感じていることが分かる(※5)
- ※1 経済産業省/「DXレポート〜ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開〜」より作成
- ※2 日本情報システム・ユーザー協会/「企業IT動向調査2019(2018年度調査)」より作成
- ※3 総務省/「令和元年版情報通信白書」」より作成
- ※4 日本情報システム・ユーザー協会/「デジタル化の取り組みに関する調査」より作成
- ※5 情報処理推進機構社会基盤センター/「IT人材白書2019」より作成
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「技術的負債」の問題を解決しなければ莫大な経済的損失が発生
経営者はDXについて状況を認識し、主体的に取り組むことが必須
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