サイボウズ株式会社

目標150件で実績8件……大失敗を全社公開したら、なぜか社長に褒められた

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 企業経営者
  • 新規事業開発担当者
  • マーケティング担当者
  • 組織運営に関心のある人
  • 挑戦する文化を取り入れたい組織のリーダー
Point この記事を読んで得られる知識

このサイボウズの記事は、150件の目標に対して実際に8件の販売という新規事業の失敗を公開することで、社長から賞賛を受けたエピソードを中心に描かれています。失敗した結果を全社に公開しつつ、挑戦する姿勢が組織として重要視されていることが一つの主要なメッセージです。

この記事を読むことで、新規ビジネスが失敗しても、それが次の成功の糧になること、そして企業文化に挑戦する姿勢を組み込むことの重要性がよく伝わります。具体的には、挑戦自体を促進するための組織環境の整備や、挑戦に対するフィードバックの仕方が、特に組織のリーダーにおいてどのように機能するべきかが語られています。リスク感度が高まりがちな中で、どのようにして挑戦を奨励するかが示唆されています。

また、失敗から何を学び、どのように次に活かすか、新規事業におけるトライアンドエラーの重要性についても述べられています。具体的には、ユーザーの課題を正しく理解し解決すること、コンフリクトに配慮しながら既存ビジネスとの調整を行うこと、組織内外の情報共有を促進し、オープンにすることで既存の知識を活用するといった要素が強調されます。

この取り組みの中で、どのような状況でも「人」が最終的な決定を行うという視点を尊重し、また、その背景には社内外の情報がオープンにされていることの重要性も語られています。これらの点が、企業が新しい事業に踏み出す際の指針となるでしょう。

Text AI要約の元文章
サイボウズ

目標150件で実績8件……大失敗を全社公開したら、なぜか社長に褒められた

サイボウズで学校向け新規事業「スクール&ペアレンツライセンス(通称:スクペア)」を立ち上げた深澤修一郎。しかし、目標販売数150件に対して実績8件という結果に......。

自ら撤退を決断し、その判断は経営会議を通じて全社員に公開。普通なら避けたい「失敗の公開処刑」のはずが、青野社長からの第一声は「ナイストライ!」でした。

なぜ失敗が賞賛されたのでしょうか。承認者の栗山圭太と深澤に、サイボウズ式編集部の高橋が取材しました。

新規事業の撤退──失敗が全社に通知される“公開処刑”!?

高橋
事業をクローズすると判断したのは、発案者である深澤さん自身だったんですよね?
深澤
そうですね。クローズするとなると経営会議にかけることになるので、ちょっと葛藤もありました。

ただ、なかなか販売本数も伸びていなかったので、一旦クローズしよう、と。

深澤 修一郎(ふかさわ・しゅういちろう)。2012年、新卒でサイボウズに入社。7年間パートナー営業部に在籍。2020年からマーケティング本部に異動。kintoneのテンプレートアプリを100個以上に増やす企画や、サイボウズのオフィスで他社フェアを初めて企画するなど、これまで社内で誰もやっていなかったこと自ら起案・実行してきている

高橋
ちなみに、実績はどうだったんですか?
深澤
目標数150件に対して、実績は8件でした。
高橋
2桁違う......。
深澤
なるべく気にしないようにはしてましたけど、経営会議で社長の前で報告することになるので、さすがに「どんな目で見られるかな」と思わなくはなかったですね。
栗山
経営会議の内容は全社的にも通知されますからね。
高橋
実際、僕もその内容を見て今回の取材をお願いしようと思いました。

失敗を褒めたのは「リスク感度」に機会をつぶさせないため

深澤
でも、僕からすると意外だったのは、青野さんから真っ先に「ナイストライ!」って言ってもらえたんですよ。
高橋
ナイストライ......! ふつうなら叱られそうなのに。
深澤
自分としてはもっと厳しいフィードバックが出てくるかなと思いましたが、前向きにとらえられました。
栗山
僕からすると青野さんの反応は意外ではないですけどね。

やっぱり挑戦することが組織にとってめちゃくちゃ大切なんですけど、上司はその機会をつぶしてしまいがちなんですよ。

栗山 圭太(くりやま・けいた)。スクペアの承認者。執行役員事業戦略室長 兼 マーケティング本部長 兼 グローバル事業本部長。2003年、新卒で入った証券会社を辞め、第二新卒としてサイボウズに入社。公共営業、大阪営業所の立ち上げなどを経て、「サイボウズ Office」「kintone」のプロダクトマネージャーを経験。その後自身の強い希望で営業に戻り、ここ数年はアジアの拡販にも注力。アジア10カ国を訪問し、パートナー企業とのリレーションシップを図っている

高橋
「もっと挑戦してみてもいいのに」と嘆く上司の声を聞くこともありますが、実はその上司自身がブロックしていたりすると。
栗山
そう。なぜなら経験を重ねていくと、どうすれば成功するかよりも、どうしたら失敗するのかがわかるようになるからです。
高橋
というと?
栗山
リスク感度は経験とともに鍛えられていくけど、成功するかどうかはセンスが問われる。

だからレビューのときにはどうしてもリスク管理的な観点からのフィードバックが多くなってしまうんです。

議事録に残る青野社長の言葉

栗山
青野さんが経営会議であえて「ナイストライ!」って言ったのも、挑戦することを後押しするいい機会だと思ったからじゃないですかね。

議事録として全社に公開されるから、インパクトもありますし。
深澤
たしかにそうかもしれません。

挑戦するのは不安じゃない? 「情報共有」できっかけづくり

高橋
そもそも深澤さんはなぜスクペアに挑戦したんですか?
深澤
とあるイベントで教員の方とお話ししたときに、教育分野はまだまだアナログな業務管理をしていることがわかりました。

で、実際に実証実験をしたら、教員と保護者との情報共有でニーズがありそうだなと感じたんです。

学校からのお知らせなど教員と保護者間の情報共有を目的としたkintone「スクール&ペアレンツライセンス」。年間¥600,000(税抜)で1,000人まで利用可能。2021年7月に新設され、2025年3月に販売を終了した

高橋
この企画を提案された当時、栗山さんは承認者としてどう感じました?
栗山
まずは率直に「面白いな」と思ったんですよ。

保護者との接点も増えることから、市場開拓も期待できそうだな、と。
高橋
でも、何回か差し戻したと聞きました。何かリスクがあったんですか?
栗山
同じ市場を狙っているパートナー企業もいるんです。教員か保護者が費用の負担をするということは、パートナーの事業とお金の出どころが同じになってしまいます。そのため、コンフリクトがないとは言い切れないんですよね。

だから営業本部長(当時)という立場上、何でもかんでも「面白いね」とは好き勝手に言えません。
高橋
一生懸命営業開拓しているメンバーもいますもんね。
栗山
だから深澤さんは、何度かやり取りするなかで「こうすれば既存ビジネスと重ならない」と少しずつずらして、ブラッシュアップして提案してくれましたね。
高橋
企画提案って大変ですね......。心理的な負担はありませんでしたか?
深澤
そうですね。でも、教育分野に興味のあるメンバーが何人か手伝ってくれて、資料や事例づくりに協力してくれたり、PTAを紹介してくれたりしました。
高橋
なんと!
栗山
結局他の人もフィードバックのやり取りを見ているから、少しずつ「深澤さん、頑張ってるな」って、応援したい雰囲気が生まれてくるんですよ。

元教員の社員と健康観察簿アプリの開発を進める様子(画像は編集部にて一部抜粋・編集したものです)

深澤
企画書をつくる上でも、社内のキントーンにこれまで蓄積された営業案件や他部署の取り組みを参照しながら企画を詰めていくことができました。
高橋
他部署の情報をもらうためにいちいち上司に交渉しなくていいのは、ストレスがなくていいですね。
栗山
情報のフラットさがやっぱり大切ですよね。ピラミッド型の組織では上司と部下で持っている情報量が違うから、「情報マウント」が起こりがち

部下の提案に対して「いや、それはもうこっちで話して決まってるから」とマウントを取ってしまう。
高橋
部下からすれば「先に言ってよ」と思いますね。
栗山
情報がオープンかつフラットであれば、そもそもそういう問題は起こりません。

サイボウズの場合「チームワークあふれる社会を創る」ことがパーパスですから、情報格差をめぐって足を引っ張り合うようなことは起こらないんですよ。

新規事業は「トライアンドエラー」を積み重ねてこそ

高橋
起案から事業化までの流れはスムーズだったと思うのですが、実際はうまくいかなかったのはなぜでしょう……?
深澤
いちばんハードルとして高かったのは、競合サービスの存在でした。もっと安価に導入できるものが他にも出てきたんです。
栗山
ちょうどコロナ禍で、学校側としてはまず保護者との情報共有をなんとかしたい、というニーズが強かったんですよね。

それを受けて、他社もオプションとして情報共有サービスを提供したり、特化型のサービスが出てきたりしました。
高橋
そうなるともう、「安いほうがいいよね」となってしまいそう……。
栗山
最初から「面白いチャレンジだな」と思いつつ、「とはいえ誰がお金を出すのか……学校側か? 保護者側か?」という懸念点は、最後まで解消されなかったというのが正直なところなんですよね。
深澤
そうですね......。
高橋
なかなかうまくはいかないですね......。
栗山
ただ、いまとなっては「誰がお金を出すの?」と突っぱねて僕が承認せずに終わっていたのと、実際に深澤さんがチャレンジして失敗を経験するのとでは、大きな差があります。

深澤さんが失敗を経て、成長して得られた実感は、貴重なものなんですよ。挑戦しないことには、失敗はないですからね。
高橋
「誰がお金を出すのか」以外に、深澤さんはどんな学びを得られましたか?
深澤
ユーザーの本当の課題は何なのか。何を解決すればサービスを使おうと思ってもらえるのか。

あくまで自分自身のなかではありますが、そうした点をより深く考えて行動できるようになったような気がしています。
高橋
というと?
深澤
そもそもキントーンでお客様の課題を解決できるのか、無理やり合わせにいっていないか……と、しっかり見極めようとする視点が生まれてきたんです。

スクペアのとき、僕らとしては「これを入口として、他の学校業務もデジタル化するような流れにつなげていけたら」と考えていたのですが、それってお客様にとっては関係ないですもんね。
栗山
そういう視点はめちゃくちゃ大切ですよね。

マーケティングの考え方としても「顧客の課題解決になっているか」というのはまさに教科書に書いてあるような基本的な話ですけど、なかなか実感を得られる機会は多くないんです。
高橋
知識として知っているのと、実践して自分の言葉で語れるのは違いますね。
栗山
新規事業って、そんな簡単な話じゃないんですよ。他社が「うちは30年やってきてます」みたいな市場へ戦いにいくようなことだったりする。

だから、僕らは思い切ってチャレンジして、失敗と検証を積み重ねていくしかないんですよ。
高橋
新規事業をする上で、どのようなことを意識していますか?
栗山
失敗したからといってすぐに諦めてもダメだし、ギリギリまで粘って、粘りすぎてもダメなんです。

この粘るか撤退するかを判断するときの微妙なさじ加減は、経験してみないとわからない。
深澤
粘る感覚はなんとなくわかる気がします。
栗山
これこれ! すばらしい。
高橋
(全然わからない!)
深澤
顧客にきちんとハマってないところをやっても、全然意味がないですもんね。
高橋
見極める判断基準って、どういうものなんでしょう?
深澤
それはもう、お客様が喜んで使い込んでいるか、ですよね。購入してくれたけど、実はあまり喜んでいなかった、みたいなことがあるんです。
高橋
喜んでいる、というのは?
栗山
本当に助かったとか、課題を解決できたっていうお客様がいるかどうかなんですよね。そうするとどんどん横展開できたりする。

スクペアのときはどうでした?
深澤
喜んでくださる人はいたんですけど、「もう少しこうしたらいいのに」とか「こうできたらいいのに」みたいな声も結構あったな……と感じています。

新たな挑戦「産業まるごとDX」へ

栗山
深澤さんがそういう経験をしたからこそ、新しいプロジェクトにも声をかけたんですよ。
高橋
新しいプロジェクトとは?
栗山
「産業まるごとDX」というプロジェクトで、「潜在市場の掘り起こし」というテーマのもとに推進している施策です。

いろんな部署から人を集めるにあたって、頭に浮かんだのが深澤さんだったんですよね。
深澤
ありがとうございます。
高橋
「産業まるごとDX」はどんなプロジェクトなんですか?
栗山
特定の産業に特化したアプリパックを展開することで、業界全体の効率化をはかり、みんなでレベルアップしようという取り組みです。
高橋
深澤さんにとって、スクペアの経験はどのように活かされていますか?
深澤
基本的なことではありますが、どの産業にアプローチするか探索していくなかで、キントーンが本当に価値を出せるかどうか、キントーンを活用したいと考えるお客様がいるかどうかをしっかりと見極めていく視点を持てるようになったと感じています。
高橋
なるほど。
深澤
例えば、ちょうど先日「消防設備士サミット」というイベントに出展させてもらったのですが、これはもともと消防設備点検を行う会社さんが3社ほどキントーンを使っていらっしゃったんですよ。

話を聞いてみると、点検業務の案件管理をする目的で活用されており、どの企業も使い込んでいて。
高橋
「喜んで」使い込んでいるんですね......!
深澤
それで、他にも横展開できるような事例になりそうなので、アプローチしてみることにしました。
栗山
めちゃくちゃ良い事例になりそうですよね。やっぱり、先行事例があるかどうかで反応が全然変わってきますから。
深澤
一つひとつはニッチな市場かもしれませんが、一気に広がるようなビジネスモデルをつくっていきたいです。

仕組みも環境も大切だが、最後に決めるのは「人」

高橋
経営的な視点から見て、事業の失敗や撤退についてどうとらえているのですか?
栗山
企業としては痛い部分もあるかもしれないけど、組織としては深澤さんのように「失敗を経験した人材」は貴重だし、もっと増やしたいですよね。

どれだけ挑戦して、どれだけ失敗したのか。これらは人が成長するには不可欠な経験だと思います。
高橋
上司がそう言ってくれるのは心強いです。
栗山
ただ、何度も言うように失敗するにはチャレンジしないといけないし、そのためには企画が通らなければなりません。

よく「チャレンジ精神」とか「挑戦しても折れない心」とか言いますけど、精神的な問題ではなく、やっぱり組織として「挑戦できる環境があるか」が重要ですよね。
高橋
挑戦できる環境はどのようにつくるんでしょうか?
栗山
僕らみたいなトップマネジメントが、上長が中途半端な知識とリスク感度だけで「チャレンジの芽」を潰していないか、しっかり注視しなければならないんですよね。

現場のリーダーと課長、部長と僕みたいな本部長では、リスクの許容度が違うというのも事実。課長からすると「いや、難しいだろう」と感じても、本部長の立場なら「いけるでしょ」と判断するかもしれません。

逆に言えば、青野さんからも僕らはそういう視点で見られているんだと思いますよ。だから真っ先に「ナイストライ!」という言葉が出てきたわけで。
高橋
そうですね。
栗山
だから自分の目の届く範囲と経験だけで判断するのではなく、しっかりと情報を取りに行って、視野を広げ続けなければいけないんですよね。
高橋
そういう意味では、仕組みとして広く情報が公開されていることも重要ですね。
栗山
そう。誰が何に挑戦していて、何が承認されたのか、みんなが知っている状態。だから応援する人が現れるし、挑戦する人も孤独にならない

そして何より「あ、こういう企画が通るんだ」っていうのがわかりますよね。
深澤
たしかに大きいですね。スクペアの起案時も過去の経営会議の議事録を読んで、「こんな挑戦もアリなんだ」と思えました。
栗山
ただ、仕組みや環境が整っているからといって、自然と挑戦が増えるというわけではありません。結局、最終的に決めるのは、人なんですよ

僕らもちょうど来年から始めようと思っているんですけど、月に1回は必ず企画書を出してもらおうかな、と。マーケティング本部を「企画を大切にする部署」にしたくて、そういうルールをメンバーに課そうと思っているんです。
深澤
栗山さんには営業本部時代から「とにかく企画が大事」と教わりました(笑)
栗山
プロモーション、ブランディング……それぞれ違う課題に取り組んでいて、さまざまな業界や業種、地域……草の根的にいろんな人と関わっているじゃないですか。

そこから独自の切り口を考えて、タイムリーに企画を仕掛けていきたいんです。
高橋
大切なことですね。
栗山
そして企画を実行に移していこうと思うと、もっといろんな人のことを知って、いろんな人の助けを求めなければならない。そうやって挑戦して、また失敗して。

失敗するって、辛いんですよ。でも情報が公開されていれば、応援してくれる仲間が見つかって、助言してくれる人も現れる。1人だけで失敗するよりずっと気が楽だし、大きくレベルアップできると思うんです。
高橋
そこで得た経験がまた、意思決定の判断軸になるわけですね。「AIに淘汰されないスキル」って、結局「判断力」なのかもしれません。
栗山
そうそう。だから「失敗を恐れて何も挑戦させない」っていうのは、実は組織にとっていちばんのリスクなんです。

企画・編集・撮影:高橋団(サイボウズ)執筆:大矢幸世

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執筆

ライター

大矢幸世

愛媛生まれ、群馬、東京、福岡育ち。立命館大学卒業後、西武百貨店、制作会社を経て、2011年からフリーランスで活動。鹿児島、福井、石川を経て、東京を拠点にビジネスやデザイン、ローカル領域を中心に執筆・編集を行う。

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編集

編集部

高橋団

2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。

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