サイボウズ株式会社

「社員の本音」を5分で可視化。AIを使った新しいワークショップの形

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 企業の経営者
  • 人事担当者
  • チームマネージャー
  • ワークショップ企画者
  • AI技術に興味がある人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事は、サイボウズという企業がAIを用いたワークショップで、社員の意見を効率的に集め、可視化する手法を紹介しています。従来の要素に基づくワークショップとは異なり、AIを利用することで短時間で多くの社員の本音を引き出すことが可能になり、議論の質を向上させることができます。特に、異なる部署や職位にいる数十名の意見を一度に集約して、重要な論点を抽出することができるという点が大きな特徴です。この方法では、個々人が自由に意見を発信でき、他者の影響を受けずに自分の考えを出しやすくなります。また、AIによって意見が整理されるため、すでに合意している部分と議論が必要な部分が明確になり、効率の良い議論の進行が可能になります。さらに、多くの人が関心を持っている議題に対する議論の効率化により、これまで注目されづらかった少数意見に対しても時間的な余裕が生まれ、注意を向けやすくなるという利点も説明されています。

Text AI要約の元文章
サイボウズ

「わかりあえない」から進むテクノロジー

「社員の本音」を5分で可視化。AIを使った新しいワークショップの形

「現場の声を経営にいかしたい」
「社員の声に広く耳を傾けたい」

そう思うものの、数十人、数百人の意見を聞くことは難しく、結局は一部の人の意見で決まってしまう。そんな経験を持つ人は多いのではないでしょうか。

どうすれば社員の「本音」を拾えるのか。

サイボウズ式編集部ではこの夏、AIを使ったワークショップを開催。わずか5分で参加者約50人の本音を引き出すことに成功しました。今回はワークショップ参加者の一人で、マーケティング本部でAI支援を進めている、千葉の目線でレポートします。

部署も職位もバラバラな50人。議論はまとまるのか?

8月某日、東京オフィスの会議室とオンラインをつないで約50名の社員が集合。参加者の千葉も会議室に入りました。
千葉
今日のワークショップはここか。結構人数いるな。

どんなワークショップになるのか…?

この日議論したテーマは「社内でのAI利用推進」。

目覚ましいスピードで進化するAIを、社内の業務にどう生かすべきか──多くの企業と同じように、サイボウズも試行錯誤しています。

千葉は普段からAIへの関心が高く、所属するマーケティング本部でも積極的にAI活用を進めています。その一方で最近は悩みも出てきました。

千葉
AIを積極的に活用していきたいけど、情報漏えいや著作権などのリスクも考えないといけないし、進め方が難しいんだよな……。
ワークショップの参加者は職位も職種もバラバラ。情報システム部門、カスタマー部門、営業、開発、人事など多岐にわたります。
千葉
今日はいろんな部署の人の意見が聞けそうだし、ワークショップ自体にもAI使うらしいから、参考になるといいな!
司会
みなさ〜ん! ワークショップ始めます!

従来の「ふせんワーク」では「モヤモヤの共有」が限界

司会
最初は、ふせんワークをします。
AIを使ったワークショップと従来のワークショップの違いを体感するため、最初は、ふせんワークを行いました。 5人ずつのグループに分かれ、ふせんに意見を書き出す、一般的なやり方です。

おなじみ、ふせんワーク

「社内教育に力を入れたほうがいいのでは」「成功事例やTipsをもっと共有したほうがよいのでは」 それぞれが感じている「モヤモヤ」がふせんで共有されました。
司会
あと5分で、グループの意見をまとめてください。
千葉
5分か、うーん、どうやってまとめよう……。
司会
ではグループの代表の方に発表をお願いします。Aグループから。
千葉
はい、千葉が発表します。まず情報漏えいのリスクの不安や、AIによってどんな効果が得られるか不透明といった意見がありました。

このため、社内教育や、情報漏えいの防止対策に力を入れてはどうかと話しました。
司会
ありがとうございました!
千葉
とりあえずまとまったけど、もうちょっと時間が欲しかったなあ。
普段の業務から離れてワイワイ議論をすることで、一定の意見出しはできたものの、15分という短い時間では、結論を出すことは難しかったようです。

AIにファシリテーションを任せてみると?

司会
ここからは「いどばたシステム」を使います。

いどばたシステムの画面

いどばたシステムは「デジタル民主主義2030」(※)のなかで開発された大規模熟議ツールです。これまでは主に政治の分野で使われてきましたが、開発者である青山柊太朗氏と、サイボウズ・ラボ 西尾泰和によって、サイボウズの専用環境が構築されました。

※デジタル民主主義2030:技術の力で市民の声を活かし、政治をよりよい形に進化させることを目指したプロジェクト

青山柊太朗(あおやま しゅうたろう)コロンビア大学工学部情報科学専攻。 合同会社多元現実 代表。ソニーコンピューターサイエンス研究所(Sony CSL)やスマートニュースメディア研究所にて、AIを介したコミュニケーションについての研究に取り組む。 デジタル民主主義や熟議支援技術の社会実装も行っている。2020年度IPA未踏クリエータ

西尾 泰和(にしお ひろかず)24歳で博士(理学)を取得。2007年よりサイボウズ・ラボにて研究に従事。主幹研究員。ソフトウェアによる知識創造の進化に関心がある。著書に『コーディングを支える技術 ~成り立ちから学ぶプログラミング作法』(技術評論社)『エンジニアの知的生産術 ──効率的に学び、整理し、アウトプットする』(技術評論社)などがある。一般社団法人未踏の理事を兼任

千葉
これが「AIを使ったワークショップツール」ですね! 民間で使われるのは今回がはじめてですか?
青山
企業の現場で使うのは今回がはじめてです。

異なる背景を持つ人同士が互いの考えを理解したり、直接コミュニケーションしたりする機会を増やしたい、という思いがあって開発しました。どのような結果になるか楽しみです。
西尾
僕は「知的生産性の向上」に関心があるのですが、AIによって、組織内の多様な立場の人の意見を多様な立場の人が知る機会を作れれば、組織としての知的生産性の向上につながるのではないかと思って、期待しています。

いどばたシステムでは、まず参加者それぞれがAIとチャットをして、自由に意見を書き込みます。その後、書き込まれた内容をAIが整理、要約します。

参加者は、ふせんとペンをパソコンに入れ替え、それぞれでチャットを始めました。

千葉
ChatGPTみたいな感じかな。
AI
最近の業務でAIについて、印象に残ったことや体験があれば教えていただけますか?ゆっくりで大丈夫ですよ。
千葉
なるほど、これに答えていくのか。えーっと、印象に残っていることは……。

いどばたシステムのチャット画面

司会
書き込んだ内容は公開されないので、自由に書いてくださいね。
千葉
他の人から直接みられないなら書きやすいですね。AIなら気を遣わなくていいし。
50名の参加者が5分間、それぞれ社内でのAI活用に対する本音を打ち込んでいきました。

50人の本音がいどばたシステムに書き込まれた

5分で「社員の本音」が可視化

司会
チャットを止めてください。これからみなさんが書き込んだ情報を元に、論点を抽出します。
開発者の青山氏がボタンを操作して数分後、「重要論点」が6つ表示されました。

参加者が書き込んだチャットの内容に基づいて、6つの論点が抽出された

千葉
おお!すごい!
たった5分。AIとチャットをしただけで、50人分の「本音」が浮かび上がったそのスピード感に、会場からもざわめきが起こりました。
千葉
この「論点まとめ」というのはなんですか?

AIが抽出した論点には、詳細な解説がそれぞれ書かれていた

青山
異なる人から関連した発言がたくさんあった場合に、それは多くの人が関心を寄せているテーマだと判断して、重要論点という名前でまとめて表示しています。

さらに深掘りして、合意点と対立点を表示します。
千葉
すでに合意しているポイントがわかるのはいいですね!
西尾
この点はもうみんな合意しているから、意見が違うこっちの議題に2時間をかけよう」というようなコミュニケーションができるので、議論がより濃くなると思います。

「意外と自分だけじゃなかった」

千葉
重要論点の中の、「文化か統率か、AI推進の舵取り」(ボトムアップの文化を大事にするか、トップダウンで進めるべきか)はおもしろいですね。

「文化か統率か、AI推進の舵取り」とタイトルがついた論点

サイボウズはボトムアップの文化が根強く、AI推進についても各本部それぞれが自発的に取り組んでいます。

一方他社では、トップがAI注力を宣言したり、AIの活用を人事評価に取り入れたりするなど、トップダウンで進めている事例も多くあります。

千葉
他社の活動を見て「サイボウズのAI活用はこのままでいいのだろうか?」となんとなく思っていたのですが、同じような迷いを持つ人が多いというのが意外でした。
西尾
いどばたシステムの大きな特徴は、発言ハードルの低さです。AIとの対話形式なので、「会場の空気」や「個人の声の大きさ」に左右されず、自分のペースで意見を書き込めます

さらにもうひとつの特徴は、共有範囲の広さです。個人がAIと対話した内容が、いったんAIによって噛み砕かれて、共通点・相違点の分析をかけて共有されるので「実はみんなこう思っていたんだ」「こんな切り口があったんだ」という気づきにつながります
千葉
「意外と自分だけじゃなかった」とわかったのは大きな発見でした!

サイボウズのAI活用の現在地

今回のテーマである「社内でのAI利用推進」。実は、サイボウズ社内ではすでに多くの社員が、日々の業務でAIを利用しています。

とくに議事録作成や、資料作成、お客様からのお問い合わせ対応などで活用されていて、2025年6月に実施した社内アンケートでは回答した1118人中80%が「AIを日常的に使っている」と答えています。

しかし、個人個人に利用状況を確認してみると「全然使いこなせていない」「他社ではもっと活用している気がする」と答える社員は少なくありませんでした。

青山
いどばたシステムの結果を見ると、主な論点は以下に集約されると思います。

・利用推進と情報漏えいリスクのジレンマ
・AIの使い方や選び方などのスキル面
・ボトムアップの進め方の是非

これらを深掘りすればAIの活用がより進みそうですね。
千葉
参加する前は「どこから手をつけたらいいんだろう」と思っていたけれど、議論の糸口が見えてきたな!

ワークショップ終了! おつかれさまでした〜

チームで使うAIのあり方

千葉
これまでのワークショップだと、全員がフラットに発言できるようにするのに、ファシリテーターがいろんな工夫をしていますが、いどばたを使うと、全員が公平に発言できるのがいいですね。
青山
ありがとうございます!
千葉
ひとつ気になるのですが、「関心が高い論点」ばかりが注目されると、少数意見が見つかりづらくなりませんか?
西尾
時間は限られているので、まず大勢が関心を寄せている論点を効率化することが大事です。いどばたシステムを使うことで50人の意見が5分でアウトプットしました。これを従来の会議でやったら4時間の会議になってしまいますね。

さらに、共通点と相違点が抽出されるので、これを議論の土台にすることで、効率よく議論を進めることができます。

関心が高い論点の議論が効率化することによって、時間に余裕が生まれます。時間ができれば、これまでは「忙しいから、無視しよう」となっていた少数論点にも注意を向けられるようになると思います。
千葉
あくまで議論を効率化するツールなんですね。
青山
ツール側で改善の余地もあると思います。参加者の傾向を散布図やグラフで表示するなど、今後検討してみます。
千葉
ありがとうございます。今後の改善に期待しています!
はじめてのAIを使ったワークショップは無事に終了しました。
千葉
AIで会議のやり方も変わっていきそうだ。チームでも使ってみたいな。
社員一人ひとりのリアルな「本音」を、会社の意思決定に生かすにはどうすればいいか。AIを使ったチャレンジは今後も続きます。

企画・編集・撮影:高橋 団(サイボウズ)執筆:山本悠子(サイボウズ)

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執筆

編集部

山本 悠子

新卒で大手メーカーで勤務したのち、2016年にサイボウズへ入社。製品プロモーションやWebディレクションの経験を経て、サイボウズ式編集部に。組織づくりや働き方に興味があります。

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撮影・イラスト

編集部

高橋団

2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。

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