サイボウズ株式会社

日常的なつながりが、災害時にも生きる。LINEが大事にする、人と人の「距離を縮める」ITの力

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 情報技術に関心がある人
  • 防災に興味を持つ人
  • LINEなどのSNSを利用している人
  • 災害に備えたいと考えている個人や組織
  • 自治体関係者や防災関係者
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を通じて読者は、LINEが災害時における情報連絡手段としていかに活用されているかを知ることができます。LINEの災害支援には、「LINE安否確認」、「LINEオープンチャット」、「LINE公式アカウント」の3つの主要な取り組みがあり、それぞれが災害時のコミュニケーションや情報共有に貢献しています。具体的には、LINE安否確認では大規模災害発生時に自分や他者の安否を迅速に確認でき、LINEオープンチャットでは地域コミュニティが災害時の情報を共有する場として役立ちます。さらに、自治体のLINE公式アカウントを通じて、住民が避難所やインフラ情報を受け取ることができます。これらの機能が、LINEの普及率の高さも相まって、発災時の情報のばらつきを減らし、情報格差を解消する助けとなっています。

また、記事ではLINEが防災分野で取る進化する取り組みや戦略についても述べられており、災害関連死を防ぐためのデジタルツールの活用や、平時からの地域コミュニティの構築が重要とされています。さらに、LINEが他の自治体と協力してテンプレート化された情報発信の手法を開発したことにより、いかに迅速かつ正確な情報伝達が可能になるかが強調されています。最終的に、LINEが災害時の命を救う一助となることができる可能性について、多くの示唆を提供しています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

防災とIT

日常的なつながりが、災害時にも生きる。LINEが大事にする、人と人の「距離を縮める」ITの力

災害への備えや支援において、ITを役立てる方法を探る連載「防災とIT」。災害大国ともいえる日本では、いつ、どこで被災するか分かりません。もし、自分が被災したときに、大事な人と連絡が取れなかったり、必要な情報が得られなかったりしたら……。災害時に必要な情報に触れられるようにしておくことは、とても重要なアクションです。

国内総人口の約8割、9900万人が利用するLINEは、防災や災害支援を重要テーマのひとつに掲げ、災害時だけではなく平時からの「つながり作り」に取り組んでいるといいます。

今回はLINEヤフー株式会社 会長室 ソーシャルアクション推進ディビジョンの橋口翔さんに、LINEでのつながり作りや、災害時にITが担う役割について、お話を聞きました。

LINEの災害支援、3つの柱とは?

澤木
まず、防災や災害支援に関するLINEの取り組みについて教えてください。
橋口
主な取り組みに「LINE安否確認」、「LINEオープンチャット」、「LINE公式アカウント」の3つがあります。

LINE安否確認は、震度6以上などの大規模災害が発生したときにLINEの画面上に表示されるポップアップから、自分の安否を大事な人たちに知らせたり、友だちの安否状況を確認したりできる機能です。

橋口 翔(はしぐち・しょう)。LINEヤフー株式会社 会長室ソーシャルアクション推進ディビジョンに所属。官公庁や自治体に自社サービスの活用支援を担当。現在は防災や行政DXなど、公共分野の取り組みにも携わる

橋口
近年の災害では、LINEオープンチャットの活用が非常に増えています。

これは、LINEの友だちになっていない相手と、ニックネームで参加できるトークルーム内で情報交換できる機能です。平時には同じ趣味や価値観を持つ方々のコミュニティ作りに活用いただいています。

2024年の能登半島地震の発災後には、地域コミュニティや支援団体によるオープンチャットが100以上も立ち上がりました。

オープンチャットの画面

澤木
平時からオープンチャットが浸透していたからこそ、災害時にも活用してもらえたんですね。能登半島地震の際には、具体的にどんな情報共有がされていたのですか?
橋口
地域住民同士でのやりとりが多かったですね。たとえば、避難所での炊き出しや給水に関する情報の共有や、ペットを飼っている方々によるペットを連れて行ける避難所の情報交換、事情により支援物資を取りに行けない方のもとへ物資を届けるためのやりとりなど、被災者の方同士での助け合いなどにも活用されていました。
澤木
小さなコミュニティで情報交換できるのは助かりますね。

自治体のLINE公式アカウントとは、どういうものでしょう?
橋口
自治体のLINE公式アカウントに友だち追加しておくと、LINEで自治体の情報を受け取ることができるようになります。相談窓口での活用なども含めると、現在47都道府県すべてで運用しています。市区町村と特別区を含めると、全国の8~9割の自治体が活用していますね(※)。

普段は行政サービスや、地域のイベント情報を発信しているところが多いと思います。

※ LINE公式アカウントにおける地⽅公共団体プラン等の提供自治体数(約1,500自治体。2025年4月時点)

自治体のLINE公式アカウント例

橋口
災害時にはインフラや避難所の情報発信に活用されています。自治体から情報が直接届くのは、被災された方々の安心感につながっているのではないかと思います。

そのほかにも、先進的な取り組みとして、LINEで避難所の受付をする実証実験を進めている自治体もありますね。

被災地に入って感じた、避難所の把握の難しさ

澤木
能登半島地震でも、支援を行ったと聞きました。
橋口
はい。LINEヤフーが参画している「防災DX官民共創協議会」の一員として、石川県庁に入ってデジタル面の支援を行いました。
澤木
実際に石川県庁に常駐したのですか?
橋口
そうです。長いメンバーだと3か月くらい、わたしも被災後すぐの2024年1月中に、十数日入りました。

わたし自身は災害時に遠隔で支援をさせていただいた経験はあるのですが、被災地に常駐したのは能登半島地震が初めてでした。
澤木
実際に被災地に常駐して、どんなことを感じましたか?
橋口
避難所の情報を把握する難しさを感じましたね。

自衛隊や現地で支援をしているさまざまな団体・組織が避難所の情報を得ようとしていましたが、インフラの寸断もあり、避難所や被災者の情報を正確に把握することが難しい状況でした。

また、自治体が指定した避難所のほかに、住民たちが作った自主避難所もありましたから。
澤木
さまざまな場所に、たくさんの方が避難していたのですね。確かに、避難所の場所や数を特定するだけでも大変そうです。
橋口
LINEなどのデジタルツールを活用しながら、事前につながりをつくっておけば、避難所や被災者の状況を把握しやすくなるはずです。平時の段階から備えをしておく重要性を改めて感じました
澤木
能登半島地震をきっかけに着手した取り組みはありますか?
橋口
災害時に自治体が発信する情報をテンプレート化し、2025年7月にリリースしました。これは、能登半島地震の被災地・石川県珠洲市で支援を行っていた神戸市職員の取り組みをもとにしたものです。
澤木
珠洲市と神戸市の職員さんは、どんなふうにLINEを活用していたんですか?
橋口
非常にわかりやすい画像やテキストを用いた避難所やインフラの情報を、LINE公式アカウントで発信していました。これを見て、「ほかの自治体でも活用できる可能性がある」と感じたんです。

そこで、職員さんからデータをご提供いただき、テンプレートとして誰でも使えるようにしました。

LINEが提供する画像テンプレート

澤木
わかりやすいだけでなく、あたたかみがありますね!
橋口
住民がどのような情報を求めているかを考え、クリエイティブやテキストの内容を工夫されていました。

自治体が情報発信をする上で、どのように情報を出すか、どんな素材をつくるか判断するためにかなり工数がかかってしまうこともあります。テンプレート化することで、その手間を削減することにつながると思います。

防災で必要なのは、平時からのつながり作り

澤木
災害支援や防災の分野で課題として感じていることはありますか?
橋口
金沢大学と共同で能登半島地震における情報ツールの活用に関する調査を実施したのですが、「情報格差」が課題として見えてきました。

具体的には、発災後の情報に関する課題という設問で、およそ2人に1人が「情報を得られる人と得られない人で差があった」と回答していました。

平時と異なる状況で、必要な情報をどのように得れば良いのかわからない、という人が一定数いたことがうかがえました。
澤木
情報を得る手段としてデジタルの重要性は増していますが、使い方や頻度には差がありますよね。

LINEは国民の約8割が使っていると聞きました。そういう意味では、「誰もが情報を得られるツール」として機能するポテンシャルがあると感じます。
橋口
いま、事前啓発として「フェーズフリー」という言葉がよく使われています。

これは、平時にも災害時にも役に立つよう物やサービスをデザインするという考え方です。普段から使っているものが災害時にも生きるというのは、LINEとしても重要な視点だと思います。
澤木
普段から使ってもらうために、LINEとして何か取り組んでいることはありますか?
橋口
町内会などの地域コミュニティに、普段からLINEを使った関係性作りをしてもらうため、自治体と連携して地域のDX推進についても取り組んでいます。

たとえばある町内会では、以前は回覧板に掲載していた情報をデジタル化して、LINEで伝えています。町内会でLINE公式アカウントやLINEオープンチャットを作って活用している場合もあります。
澤木
LINE公式アカウントを持つ町内会! 画期的ですね。
橋口
自治会や町内会の課題のひとつに高齢化があると思います。

LINEでさまざまな地域の情報を得られることで、若い世代も自治体や町内会に参加しやすくなっていくはずです。

東日本大震災直後に生まれたLINE。双方向性をもっと生かすために

澤木
そもそも、LINEは東日本大震災から3か月後に開発されたそうですね。
橋口
はい。東日本大震災では、インフラが遮断されて連絡が取りにくかったり、安否がわからなかったりする課題が浮き彫りになりました。

そうした状況でも大事な人とつながれるようにとメッセンジャー機能がリリースされたのがはじまりです。
澤木
防災や災害支援を事業の中でどのように位置付けていますか?
橋口
ヤフーなどとの合併前のLINE社が掲げていたミッションに「CLOSING THE DISTANCE」というものがあります。人と人、人と物、人とサービスの距離を縮めていくという意味です。

災害時も大事な人との連絡手段として、また、自治体やさまざまな支援団体が情報を発信する手段として、距離を縮めてつないでいくことを大事にしています。
澤木
今回の特集では、ITが防災や災害分野でどんな役割を担えるかをテーマにしています。この点についてどのように考えていますか?
橋口
人が担っている部分を完全にITやデジタルに置き換えることは難しいかもしれません。ただ、ITができることはたくさんあると思います。

LINEでいうと、人と人、地域コミュニティや自治体をよりスムーズにつなぎ、関係を深める役割を担えればと考えています。
澤木
災害支援に関わってきた経験から、橋口さん個人として、特に取り組みたいことはありますか?
橋口
避難生活の負担などで命を落としてしまう「災害関連死」をゼロにすることが第一にあります。災害による直接的な被害を防ぐことはなかなか難しいと思うのですが、災害関連死を防ぐために、デジタルが担える部分は大きいのではないか思います。
澤木
具体的にはどんなことですか?
橋口
たとえば、避難所で生活している被災者の方々の心身の健康状態は、巡回や聞き取りで把握していることが多いと思います。LINEをはじめとするデジタルツールを活用して、よりタイムリーに健康状態を把握できれば、体調の変化を素早く察知し、災害関連死を防ぐことにもつながると思っています。
澤木
ITを併用することでより把握しやすくなるということですね。
橋口
自治体のLINE公式アカウントでは、災害だけではなく、いじめやDV、ヤングケアラーなどの相談事業が行われています。

周りに相談できる人がいなかったり、電話することには躊躇したりする人たちも、LINEを使うことで相談しやすくなっています。

命を救うために、LINEができることがもっとあると思っています。
澤木
確かに、さまざまな場所でLINEの相談窓口を見かけるようになりました。
橋口
双方向のやり取りをできるのが、LINEの強みです。

情報発信だけではなく、もっと双方向を活かしてできることがないか。ほかの企業や自治体とともにアイデアを出し合い、新たな活用方法を見出していきたいです。

企画:小野寺真央(サイボウズ) 執筆:澤木香織 撮影:小野奈那子 編集:モリヤワオン(ノオト)

サイボウズ式特集「防災とIT」

災害大国、日本。平時における防災に加え、災害が起きてからの支援活動はとても重要です。本特集では、ITで防災や災害支援活動を行う会社や団体の取り組みを通じて、防災とITの今をお届けします。

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執筆

ライター

澤木 香織

新聞社やwebメディアで記者・編集者を経験後、2025年春からフリーランスで活動しています。多様なキャリアや働き方に関心を持ち取材しています。

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撮影・イラスト

写真家

小野 奈那子

人、物、食を中心に撮影しています。ライフワークはアート収集。

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編集

ライター

モリヤ ワオン

コンテンツメーカー・有限会社ノオト所属のライター、編集者。よく担当するジャンルは、ライフスタイルや健康にまつわるもの。

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