日本の大企業は硬くてつまらない。
年功序列で無能な上司が多い。
もしあなたがJTC(※)にこんなイメージを抱いているなら、それは間違った偏見かもしれません。
今回ご紹介するのは歴史ある大企業である関西電力と、サイボウズの社会人インターンの取り組み。2024年11月に関西電力の社員4名がサイボウズへ、そして2025年2月にサイボウズ社員4名が関西電力へ。1〜2週間「交換留学」をして、お互いの社員として過ごし、それぞれの企業文化を体験しました。
参加する前は「JTCどんなもんや」と侮っていたサイボウズ社員が、関西電力で目の当たりにしたのは「圧倒的な組織力」と「働く人たちの高いスキルと情熱」。
今回は、関西電力 組織風土改革室 浦川貴史(うらかわ たかふみ)氏、サイボウズ エンタープライズ事業本部 エンタープライズ営業部 酒本健太郎(さかもと けんたろう)氏、サイボウズ 人事本部 HRBP部 綱嶋航平(つなしま こうへい)氏の3名にお話を聞きました。
※JTC:"Japanese Traditional Company" の略で、特に古い体質や文化が残る大企業を指すネットスラングとして使われる
大企業のリアルを知りたい
いやもう、関西電力さんすごいんですよ!!! なんかよく分かんないけど、オフィスのドアを開けたらパン焼いてるし!
社食は専門のコックさんがいて、すごい種類があって、しかもめっちゃ安いんですよ!!
今回は関西電力さんとサイボウズで、交換留学をしたお話を聞きたいんです! そもそも、なぜこのような企画が?
では、わたしから。実は以前、KTGC社(※)から、組織風土づくりについての講演を関西電力で実施いただいたんです。
※KTGC:元 サイボウズ 副社長 山田理氏が代表を務める KTゲームチェンジャーズ株式会社。サイボウズでの長年の経験を生かし、起業支援や組織風土コンサルティング事業を展開。
関西電力 組織風土改革室 マネジャー 浦川貴史。2010年に関西電力へ入社後、営業や人事労務を経て現職。今回の交換留学の発起人の一人。趣味はサウナと読書。
講演後に関係者で話しているときにサイボウズの課題についてもお話したんです。社員数が 1,000人を超えてきて「いろんな課題が出てきている」と。
それなら一度、お互いに社員を交換してみたら? という話になり、この企画が実現しました。
わたしはサイボウズに新卒で入社しましたが、組織や人事制度の設計をしていく中で、大企業を運営する感覚がわからなかったんです。ほかの人事のメンバーからもそうした声が多くありました。
そこで、大きな組織を長く運営している関西電力さんから「組織運営のヒントが得られたらいいな」と思い、参加しました。
サイボウズ 人事本部 HRBP部 綱嶋航平。2017年にサイボウズ入社後、採用や研修、組織開発を中心に人事領域に携わる。複業では企業や団体にチームコーチングを提供中。
「JTCどんなもんや?」と思っていた
交換留学に行く前は、関西電力さんにどんな印象を持っていましたか?
電力という事業内容からも「スーツでカッチリ」「硬くてまじめ」というイメージでした。
就活生からも、よく「硬そう」「まじめそう」と言われます。実際は結構フランクなんですが。
僕は正直「JTCどんなもんや?」とたかをくくっていました。制度や風土がユニークと言われることが多いサイボウズからみると、「ハッとするような気づきや学び」は少ないのでは? と。
受け入れる私たちも、めちゃくちゃ不安だったんです。私たちからみてもサイボウズさんは、「プラチナ企業」(※)として働き方の最先端企業だと思っていました。
サイボウズさんがうちに来て、「何を学んでもらえるんだろう?」と。「むしろ、いろいろ教えてほしい!」という社員もいたくらいです。
ほんま、ずるい。そうおっしゃっていたから、完全に油断していましたよ(笑)
※サイボウズは2024年5月の日本経済新聞のプラチナ企業ランキングで1位を獲得しました。
サイボウズ エイタープライズ事業本部 エンタープライズ営業部 副部長 酒本健太郎。2010年にサイボウズへ新卒入社後、パートナー営業、海外営業を経て現職。住んでいる明石市や家事育児について発信しているブログ「ええとこあかし」が人気。
優秀でロジカル、だけど話しやすい関西電力の社員たち
とにかく、優秀でロジカルな方がめちゃめちゃ多い!! 関西電力さんでは20〜30人くらいの方とお会いしましたが、みなさん全社戦略と自部門の活動のつなぎこみをしっかりされていることに驚きました。
サイボウズではボトムアップでいろんな施策が生まれるのは良いのですが、ともすると全社戦略とのつながりが曖昧だったり、バラバラに動いてしまったりしていることもあります。
関西電力さんは全社戦略と各部門の活動がちゃんとつながっていて、コミット度合いが素晴らしいと思いました。
それでいて、みなさん気さくで話しやすくて心理的安全性はしっかりある。笑いの偏差値はめちゃめちゃ高かったです(笑)。役員の方も、みなさんフレンドリーで仲が良かったですね。
会議もまじめな感じかなと思いきや、雑談が多かったのは印象的でした。
酒本が関西電力さんへインターン中に和気藹々と打ち合わせををする様子。(右)関西電力 執行役員 ソリューション本部 副本部長 山下さん、(左)執行役員 組織風土改革室長/経営企画室 グループ事業担当室長 野地さん。(役職は撮影当時のものです)
確かな「ビジネス筋力」と「やりきる徹底力」
やると決まったときの「徹底力」もすごかったです。印象的だったのは社内エンゲージメント調査。いわゆる社内アンケートですが、回答率が脅威の94%ですよ! 16,000人が回答してるんです。
社内アンケートはサイボウズでも多いですが、なかなか回答が集まりにくい印象があります。どうやって集めているんですか?
もちろん、メールを出しただけでは、せいぜい60〜70%くらいの回答率です。
テコ入れするために、未回答者リストを作って、各部門のマネジメントラインから催促してもらっています。「あなたの部署はまだ○人回答していないですよ」と伝えるなど、徹底して回答を集めます。
アンケートの催促って楽しい仕事ではないですよね。なぜそこまでやれるんですか?
やっぱり「できるだけ多くの社員の声を会社の施策に反映したい」気持ちが強いんですよね。もし回答率が70%だと、30%の声を聞かないまま判断することになります。
聞けなかった意見の中に大切な情報があったら、方向性を間違えてしまうこともありますし。
他にもあって、浦川さんたち組織風土改革室が他部門に風土改善の提案にいくと、最初は「忙しいからそんなのやっていられない」と断られる。
でも浦川さんたちは諦めずに「それなら、時間が作れるように、まず業務改善からやりましょう!」となるんです。
変えたいのは風土だけど、その手前に課題があれば一緒に解決しちゃう。関西電力さんでは、「範囲を超えて手を伸ばす」という意味でオーバーリーチというそうですが。
ハードルの基準がバグってて。僕らからすると「こんなの超えられるのかな」と思うところを、みなさんは「壁が見えているなら、あとは超えるだけ!」という感じ。「やり切る」覚悟が全然違うなと。
いわゆる「ビジネス筋力」、論理的思考力、企画力、実行力、巻き込み力……など、ビジネスパーソンとしてのベーススキルがすごく高いです。
自分たちでは自覚がなかったけど、「そうなのかな」と。言われて気づきましたね。
酒本さん、一緒にトイレ行くたびに「すげえな」「僕ら負けてるな」って言っていましたよね(笑)
将来を見据えたジョブローテーションと育成制度
関西電力では、人によりますが、だいたい2~3年でジョブローテーションします。
本店勤務の場合、企画系の業務に従事する機会も比較的多くあり、様々な業務を経験しながら、経営計画や戦略が作れるようになっていくのかなと思います。
加えて、経理系・システム系など、将来的に目指す専門分野をイメージしながら、複数の部門で経験を積んでいく取り組みもあります
「将来的に目指す専門分野」はどのように決まるんですか?
その人の強みや歩みたいキャリアについて上司がコミュニケーションをとりながら、育成方針を考えていきますが、公募制度などを使って社員が自ら手を上げる場合もあります。
サイボウズでは各部署の事情と個人の希望、それぞれがマッチングした上で異動が決まります。
社員にとっては安心感がありますが、ずっと同じ仕事をして成長の機会を失ってしまう可能性もあり、課題を感じています。
サイボウズさんで、さまざまな方とお話しましたが、キャリアに不安感をもつ若手もいそう……? というのは少し気になっていました。
僕も今まで複数の部署を経験して、さまざまな部署の事情が肌感でわかるのは重要だと感じています。
最近では、タレントマネジメントの観点から「戦略的な異動」を模索しています。昨年は「タレントマネジメント横断会議」を開催して、本部横断で人材育成について議論しました。
たとえば新しい業務が発生したとき、本部を超えて柔軟に人材をアサインできればいいなと。
ただ、ジョブローテをガチガチにするのはサイボウズが大事にしている「主体性」や「自主自律」が損なわれてしまうと思うので、いいバランスを探りたいです。
関西電力さんから学んだことは多いですが、どう取り入れていくか難しいですね。
サイボウズの良さを活かしながら、アップデートするには?
関西電力さんに行ったからこそ気づいたサイボウズの良さはありましたか?
サイボウズさんの良さについては、私からぜひ伝えたいんですが、私がサイボウズさんに留学したときに印象的だったのは、日常の会話に理念が出てくるカルチャーです。打ち合わせの中で自然と企業理念を話されていたことに驚きました。
青野さんとのランチミーティングで「社長として大切にされていることは?」とお聞きしたら、即答で「サイボウズの理念を維持向上させていくこと。これが僕の最大のミッションです」と。バチーン! と答えられていて。かっこいいなー! と思いました。
青野さんご自身も理念を大事にされているし、それが社員の皆さんにも伝わっていて、一人ひとりが自分の中に落とし込んでいる。めちゃくちゃ素敵やなと思いました。
浦川さんのお話を聞いて、自分たちは理念を大事にして仕事をしていたんだなって、改めて教えてもらえた感じがしました。
ほかにも、オープンな情報共有には、やはり驚きました。
サイボウズでは各部署の取り組みの状況、資料など、kintoneですぐ調べることができますが、この環境が当たり前じゃないんだなと気づきました。
このようなサイボウズの良さというか、特徴は活かしながらアップデートしたいですね。
関西電力さんでは、たとえば「新規事業に1兆円投資!」など、事業規模が想像以上で、すごいなー!と思ったのですが、サイボウズがいきなりその規模を目指すのは違うのかな……と。
サイボウズは「チームワークあふれる社会」を目指していますが、いきなり背伸びをしすぎて、社内がギスギスしてしまったら、元も子もなくなってしまう。自分たちらしい進め方、やり方は大事かなと思います。
まさにお2人のお話に、サイボウズさんが大事にしていることが表れていると思って。
無理して急拡大を狙うというより、しっかりしっかり年輪を刻みながら大きくなる、そんなポリシーが合っていそうだと思います。
“大企業の先輩”からのアドバイス「普通のJTCにならないで」
浦川さん、「大企業の先輩」として最後にアドバイスはありますか?
サイボウズさんは自由度が高いが故に、方向性がばらつくことも、今後は起こり得るのかなと思います。
これは我々にも言えることですが、目標を掲げるときに「この数字が達成されたあかつきには、なにが起きているのか?」という「目標のその先」を伝えることが大事だと思っていて。
「こんな世界を実現したいから、そのために何年後にこれくらいの利益が必要」とか、そういう数字の落とし方ができると、社員の皆さんもモチベーション高く取り組めると思います。
JTC側として思うのは、今後大企業になっても、サイボウズさんが目指したい世界を忠実に追い続けてほしいなと思います。その過程で、新たな仕組みやルールも必要になってくると思いますが。
「組織の人数も増え、利害関係者も多様化したから仕方ない」という落としどころを探すような方法ではなく、「対話と議論」でサイボウズさんらしい方法を追求してほしいなと。
大企業の運営方法にも良さはありますが、サイボウズさんが「普通のJTC」にならずに乗り越えていけるように、見守っています!
関西電力の方がサイボウズへインターンをした様子については、関西電力の「かんでんWITH YOU」をご覧ください。
2025年8月8日ワカテ社員が聞く!サイボウズとの相互インターンシップで見えた、柔らかい組織改革のヒント(かんでんWITH YOU)
企画・執筆・編集:山本悠子(サイボウズ)撮影:松本理恵子