
ADASアプリケーション「Global Safety Package」のアルゴリズム開発

-
-
- 技術者
- 自動車業界関係者
- ADAS(先進運転支援システム)に興味を持つビジネスパーソン
- デンソーの製品や技術に興味を持つ人
- 安全運転技術に関心がある人
-
-
この技術記事は、デンソーが開発した安全運転支援技術である「Global Safety Package(GSP)」のアルゴリズム開発について詳述しています。GSPは2015年にリリースされ、現在は3代目のGSP3が運用されています。この記事では、デンソーの胡桃沢仁氏が、GSPの量産設計や次世代AD/ADAS向けのアプリケーション開発における経験を語ります。
GSPは「認知」「判断」「操作」の3つの運転行動を支援するセンサー技術を統合しており、歩行者や車両を認識するために画像センサやミリ波レーダーを用いています。これらのセンサ情報を統合する「フュージョン」処理により、精度を高めた自動ブレーキなどの機能を提供しています。特にGSP3は実際の性能試験であるJNCAPのアセスメントでも高評価を受けています。
開発プロセスにおいては一般的なV字プロセスを適用し、愛知県や北海道の特設テストコースを使用し、様々な交通環境における動作をテストしています。さらに、フィールドオペレーションテスト(FOT)を通じて、実際の道路環境での走行からデータを収集し、ソフトウェアをブラッシュアップしています。
次世代のAD/ADASアプリケーション開発では、AIを活用して複雑な交通シーンに対応しており、「AIプランナー」と呼ばれるシステムが運転動作の学習を行っています。このように、デンソーが持つ専門家チームが密に連携することで、高精度な運転支援システムが開発されています。
-
-
2025.4.17
技術・デザインADASアプリケーション「Global Safety Package」のアルゴリズム開発
この記事の目次
-
株式会社デンソー
セーフティシステム事業部
セーフティシステム開発部 課長胡桃沢 仁
続いて登壇したのは、入社以来、ミリ波レーダーや画像センサを使った、ADASアプリの開発や量産設計に従事してきた胡桃沢 仁です。デンソーが開発した同パッケージシステム、「Global Safety Package(GSP)」の量産設計などにも携わっており、現在は次世代AD/ADAS向け運転支援アプリの先行開発を担当しています。
- Vol. 1:ソフトとハードに精通するデンソーが語る「先進安全・自動運転のアルゴリズム開発」
前回までの内容はこちら
この記事の目次
ADASとは?ADASアプリとは?
胡桃沢は改めて、ドライバーの運転行動には「認知」「判断」「操作」の3要素があり、この3要素を「センサ」「アプリ」「制御」で支援するのが、ADASだと説明しました。
このような運転支援や予防安全に関する機能やシステムを統合したのが、まさしく胡桃沢が携わってきたGSP。2015年にリリースして以降、現在は3代目であるGSP3を量産しており、「次世代GSP4の量産に向けて開発中です」という展望も述べました。
具体的にGSP3が支援する領域や機能も詳しく紹介するとともに、「世界トップレベルのADASパッケージ製品だと自負しています」と、胡桃沢は強調します。
Global Safety Package(GSP)とは?
システムの構成イメージ図も紹介しました。先に登壇した夏目も触れたように、まずは画像センサやミリ波レーダーで歩行者や車両など、対象物を認識します。
その後はFusion(フュージョン)というセンサー情報を統合する処理を通り、最終的に自動ブレーキを要求するなど、様々なアプリやソフトウェアの動作を行います。
Fusionという処理を通す理由については、「ミリ波レーダーや画像センサはそれぞれ異なる強みと弱みがあるため、いいとこ取りをするためです」と、説明しました。
夏目も紹介したように、GSP3を搭載した車両がJNCAPのアセスメントにおいて、高い評価を得ていることを改めて説明するとともに、実際に夜間で歩行者が突然出てきた際にブレーキが自動で作動し、衝突を回避するJNCAPアセスメント動画も流し、性能の高さを示しました。
ADASアプリ開発の流れ(V字プロセス)
ADASアプリの開発においては、一般的なV字プロセスで進みます。しかし、「自動車の場合は、道路、自然、周辺環境などのシーンが膨大な組み合わせで発生することがあります。それぞれのシーンでロバスト性を求められるためADASアプリ開発は簡単ではありません」と、胡桃沢は開発の難しさを語りました。
デンソーではこのような市場で発生するシーンを再現してテストできるよう、愛知県の額田テストセンター、北海道の網走テストセンターの2つのテストコースを保有しています。
額田テストセンターは夜間や雨天といったシーンを再現できます。一方、網走のテストコースは東京ドーム約120倍という広大な敷地を生かし、3つの交差点がある市街地を模したテストコースなどが設けられています。
ただ、これだけの規模のテストコースで評価を行い性能が認められたとしても、市場では意図しない動きをする可能性があるため、さらなる評価を重ねています。実際に道路環境でクルマを走らせて得たデータから行う、FOT(Field Operation Test)評価という手法です。
デンソーではこのFOT評価を、製品をリリースしている各国、グローバルで実施しており、その走行距離は10万~100万kmにも及びます。そうして得たデータを前述した開発プロセスに改めて通しブラッシュアップすることで、最適なソフトウェアとして最終的にリリースしているのです。
「グループ内に、センサ認識、フュージョン、アプリケーションエンジニアという、それぞれの領域の専門家がいるのがデンソーの強みであり、専門家が密に議論した結果として効果的な解決策を導き出せていると思っています」(胡桃沢)
Field Operation Test(FOT)評価
続いて、胡桃沢が担当している次世代AD/ADASアプリケーションについて解説しました。コンセプトは運転支援シーンの拡張であり、スライドで示したように自宅を出た段階から目的地に到着するまで、あらゆるシーンで安心・自由な移動を実現することを目指しています。
従来、判断領域においてはルールベースのアルゴリズムを採用していましたが、前述した通り、市街地など複雑な交通環境のシーンに対応するために、AIを活用しています。
その核となるのが、「AIプランナー」です。現在は今まさにこのAIプランナーが、様々な道路環境のシーンにおける運転動作を学習している最中だといいます。
人間でも判断が難しい交差点での右折では失敗もあるなど、「まだまだ課題は多いですが、安心・自由な移動の実現を目指して、これからも開発を続けていきます」と胡桃沢は力強く語り、セッションを締めました。
※役職などは2024年11月講演当時のものです
- Vol. 1:ソフトとハードに精通するデンソーが語る「先進安全・自動運転のアルゴリズム開発」
- Vol. 3:車両周辺情報を高性能に検知するカメラ・画像認識のアルゴリズム開発
- Vol. 4:LiDARによる認識とは
- デンソーのソフトウェアを詳しく知る
- デンソーのソフトウェアエンジニア採用について
技術・デザインTECH PLAY
COMMENT
あなたが実現したいこと、学びたいこと、可能性を広げたいことに、この記事は役に立ちましたか?
ぜひ感じたことを編集部とシェアしてください。お問い合わせはこちらRELATED
- ビジョン・アイデア2025.1.23 ソフトウェアエンジニアがクルマのコアを語る モビリティの価値を最大化する車載ソフトウェア開発の最前線
- 技術・デザイン2025.4.17 ソフトとハードに精通するデンソーが語る「先進安全・自動運転のアルゴリズム開発」 ──高精度な画像解析 / AI推論モデル / センシング / バーチャル×リアル空間シミュレーション
- 技術・デザイン2025.4.17 車両周辺情報を高性能に検知するカメラ・画像認識のアルゴリズム開発
- 技術・デザイン2025.4.17 LiDARによる認識とは ――LiDARや画像認識など、エンジニアに必要なスキル
「できてない」 を 「できる」に。
知と人が集まる場所。デンソーのオウンドメディアDRIVENBASEについて トップページを見る -