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- 技術者
- 自動車産業関係者
- 環境問題に関心のある人
- 学生や研究者
- 電気自動車(EV)に関心がある人
- エネルギー技術に関心がある人
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この記事を通して得られる知識は、電気自動車(EV)の普及に向けた技術開発の現状と未来を見据えた取り組みについてである。特に、パワーエレクトロニクス機器の開発がEVにおいて重要な位置を占めていることが理解できる。電力変換効率の向上や機器の小型化の必要性、信頼性の確保が課題として挙げられ、それらが車両価格の低減やEV普及に直接結びつく。この記事は、2030年を見据えて新しい半導体の利用による高効率化を目指すといった具体的な開発戦略も示している。
また、技術者が進めているシステム全体の最適化のために、他部品との密接な連携やモジュール化の試みが重要であり、これが結果的に効率の良いEV開発につながる。これに加えて、環境問題への配慮から製造プロセスの見直しや新素材の検討が進行中であることもわかる。そして、これらの挑戦に取り組むチームに求められる人材像として、自発的に問題解決に取り組む姿勢が評価される職場であることが強調されている。
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カーボンニュートラルに向けて世界が動く中、クルマの電動化が加速しています。普及の壁となっている課題を乗り越えるべく、EVに欠かせないパワエレ機器の開発に挑む技術者がここアイシンにいました。
2030年を見据えた先行開発に挑む
――EV(電気自動車)にまつわる開発をなさっているそうですが、具体的には?
T.R:私は電力変換器など、パワーエレクトロニクス(以下パワエレ)領域の機器について新商材の企画構想と先行開発を行っています。
――パワエレ機器の開発には、どのような課題があるのでしょうか?
T.R:ひとつは電力変換効率の向上。これは電費、つまり航続距離に影響しますので、非常に重要ですね。もうひとつは機器自体の大きさ。EVに欠かせない機器である上、搭載場所が限られることから、小型化も必須です。あとは厳しい環境にさらされる機器ですから、信頼性の確保も重要です。
――これら要素技術の進化がEVの進化につながると。
T.R:はい。パワエレ機器の小型高効率化は、結果として車両価格の低減につながります。これらの活動が実を結び、現行のガソリン車と同等の価格・性能になれば、EVの普及、ひいてはカーボンニュートラルの実現に一歩近づける。そういう想いで日々の仕事に取り組んでいます。
――さらにはビジネスの面でも貢献できるということですか。
T.R:もちろん。エンドユーザーの意向をしっかり捉えた開発を進めることで、幅広いメーカー・車種に対応できる優れた製品開発につながるはずですから。
――先行開発ということですが、いつまでにどれくらいといった目標はありますか?
T.R:先行開発ですから、世の中に今あるものの改善を期待されているわけではありません。2030年などの未来を見据えて「その頃にはこういう新しい半導体が量産になってくる。だから先行的にそういうものを使い、より高効率なものの開発に今チャレンジしよう」といった取り組みを要素技術ごとに行っています。
――確かに。10年後にはまったく性能の違う電池が出ているかもしれないですしね。
T.R:ええ。そうした先進的な研究を行なっている大学の研究室やベンチャーとの協業も多いですね。学会論文確認、展示会等にも参加しながら、我々のビジョンに合致するところがあれば、積極的に連携を取りに行っています。
要素技術開発と、システム全体の最適化を同時に進める
――現在はどのような業務を?
T.R:各アイテムの要素技術開発と、それら複数のアイテムを組み合わせたシステムの企画構想および組織マネジメントが、私の主な業務ですね。
――先ほど機器の小型化という話がありましたが、どれくらい小さくしようと考えていますか?
T.R:ざっくりですが、現行品の半分くらいの大きさを目指しています。もちろん詳細を詰める過程で修正は発生しますが、まずはそこを目指した時にどういう課題が出るのかというやり方で進めています。根本的な部分から見直しつつ、既存のものの延長線上にはないドラスティックなサイズダウンを目指しています。
――半分ですか!どのあたりがボトルネックになりそうですか?
T.R:電力変換効率は現在でも95%以上くらいの性能が出ていて、これ以上はなかなか難しいのですが、現状の性能を保ったまま小さくするのが難しいですね。部品が密集して熱がたまりやすくなり、どうしても性能が落ちてしまいますから。ただ、パワエレ機器単体ではなく車両システムとして開発できる環境があるので、うちはこの点で有利ではあると思います。
――システム全体で、というのはどのように?
T.R:ある程度各部品のイメージができてきたら、他の部品やユニット全体を担当する技術者と現状をすり合わせた上で「ここに冷却の水路があるから、この部品はこういう形状にして、このあたりで活用する方が全体としては効率がいいよね」といった感じで、ユニットとして最適なものをつくり込んでいくイメージです。
――なるほど。普段からこういう開発をしているということでしょうか。
T.R:ええ。例えば、我々アイシンはギアボックスとECUの一体化に20年くらい前から取り組んできました。生産技術含め、こうした機械系と電子系の一体化技術の積み重ねが、パワエレ機器と他部品のモジュール化にも役立つと考えています。
――その他の取り組みがあれば教えてください。
T.R:そうですね、今後のカーボンニュートラルを見据えた時に、「こういう要素技術ももっておかなきゃいけないんじゃないか」ということは考えていますね。
――例えば?
T.R:基板防水のために高温で炉に入れて接着剤を硬化させるという工程があるのですが、当然カーボンニュートラルを見据えるとそういう工程を減らしていかないといけませんよね。そのために、今のうちから製造プロセスの見直しや、新しい部材の検討などにも取り組んでいるわけです。
――最後に、どのような技術者の方を求めているのか教えてください。
T.R:既定路線に沿って動くのではなく、自分で行き先を決めて、自分で答えを出しに行く。それが仮に失敗しても、違う方向にすぐに動ける。そういったマインドを持った人を求めています。開発の成否だけでなく、取り組み姿勢そのものが評価される職場ですので、やりがいをもって働けるはずですよ。